海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
すると―⋯どうだ。

突如頭上に、ポテン、と何かが当たったかと思うと―⋯。

私が号令をあげようとする、その音とは対極になるほどの弱々しい声で―⋯

泥土に落ちた、丸っこい【ソレ】が

「ピピッ」

とひと鳴きした。

拍子抜けもー⋯いいところだ。

その落下物を拾い上げて―⋯私は両手で包み込むようにして、ソレを持った。

「な⋯、ナニコレ」

まるで、豆大福のようなぽってりとした白い身体。掌に収まるほどの小さいサイズ。

ちょこんとした黒目が愛らしいこれは―⋯

「し⋯、シマエナガ?」

日本でも人気を博した北海道に生息するという―⋯かの、有名かつ可愛いコにソックリではないか!!

冷静に考えれば―⋯ここは中国の最北部であろう。そもそもの分布を考えたら、シマエナガの原種や仲間がここにいるのも相当あり得ることだ。

見れば見るほど、愛らしい見た目。

「可哀想に。貴方も、この気流のせいで⋯」

この、迷い鳥の頭を―⋯人差し指で撫でながら、じっと見つめる。

「雪の妖精」という呼び名通りの真っ白なモフモフの体。頭には黒っぽいライン。その白は―⋯光の加減で、尾羽や翼の端にほんのりと、ラピスラズリのような神秘的な『青』が透けて見える―⋯不思議な鳥だ。

愛でずにはいられないけれど⋯さて―⋯、どうしたものか。

そんなことを考えながら、人差し指を往復させてチラ、チラっと有昧后の顔を覗き見る。

(⋯⋯睨んでる。すっごい、睨んでる⋯!)

出陣の儀を蔑ろにされたから?

いや、そんな型を気にするような男ではないだろう。

一旦差し伸べた手を引っ込めることも出来ずに、アレコレと悶々しているとー⋯。

無骨な大きな手が、突然にゅっとのびてきて。

そのモフモフを乱暴にむんず、と掴みとったではないか!

「有昧后?⋯何を―⋯」と、私が言い終わらないうちに。

『ピーッ!!!!』

と、その鳥は美しくも悲痛な鳴き声を上げて⋯空の彼方へと投げ飛ばされていったではないか。

その音色は、この北の地に一気に澄み渡り―⋯

誰もがその【号砲】に、動きをとめて―⋯目を見張る。

「有昧后。なんて卑劣な真似を⋯。あんな小さい子をまた混沌とした空に戻すだなんて―⋯」

鬼畜にも程があるだろう、と、思わず彼の胸ぐらをぐっと掴み取った。

―⋯が。

「迷い鳥と遊んでいる暇はない。使える物は何でも使え。上空の気流を測るくらいできよう」

その視線は、冷たく一切揺らぐことすらない。真っ直ぐに―⋯上空を睨むばかりだ。

と、その彼の灰色の瞳に―⋯美しい青のグラデーション。

「⋯⋯?」

ガラス玉が―⋯まるで翡翠になる瞬間だった。

私はハッとして、有昧后の視線の先ヘと振り返った。

すると―⋯

そこにいたのは、もふもふの雪の妖精とは似ても似つかない、巨体。

大きな青い羽で熱波を裂き―⋯上昇気流を一掃して優雅に旋回する鳥が―⋯そこにいた。

ラピスラズリの輝きを放つその者は、この軍営基地が騒然とする中、「キィーーン!」と鋭い鳴き声を轟かせて。上空に停空したかと思うと。

明らかに―⋯こっちを見下ろしているではないか。

< 144 / 178 >

この作品をシェア

pagetop