海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
ゆっくりと下降して―⋯戻って来たその鳥が着地するその時―⋯。その風圧に、私は思わず腕を盾にして目を閉じた。
乾いた泥埃が⋯視野を茶色に染める。
それが―⋯去っていく頃。
シマエナガの名残りであろうか?あの愛らしい瞳はそのままに、けれど神格ある視線で⋯その青い鳥はこっちを見ていた。
ふと思う。
この者は、ただの渡り鳥であろうか?
それとも、博益がひき寄せた鳥であろうか?
それとも。有昧后に従う者であろうか?
いや。そのどれとも違う気がする。
私の直感が、そう言っている。
有昧后が1度突き離したのには―⋯彼のことだ、何か理由があるのだろう。
しばし―⋯人間VS鳥の睨めっこが続く。
この鳥が悪獣や凶獣であれば、腕輪が反応するだろう。でも、そうならない。
鬼畜な軍師ならば、あの雨の日のように―⋯一瞬で地の海にすることだって出来た筈。でも、そうはしない。
鸞鳥さえ魅了した博益が、上空に留まったまま⋯この鳥に近づいてさえ⋯来ない。
私の元に落ちてきたのは―⋯本当に偶発的なものなのか?
彼らの守備範囲ではない⋯者なのか?
と、じっとその瞳だけを直視していたのが仇となった。
大きな羽がスパンッと私の足元を弾くと⋯
バランスを失った身体は、そのまま倒れこんで。
掬い上げられるかのようにして―⋯その鳥の背に乗せられてしまったのだ。
「あ〜ッ!」と叫んでも、ときは既に遅し。
まさに背後からスライディングでボールを刈られ、局面が変わる一瞬の如し。
みるみるうちに上空へと―⋯連れ出されてしまったのだ。
けれど―⋯
「ん?」
すぐに、不思議な心地よさに気づく。愚強のような粗々しさもない。博益の黒い鳥のような―⋯フワッと感もない。
まるで私の意を汲み取るようにして―⋯その高度や方角を、滑らかに変えていくのだ。
遠くに―⋯豆粒のような有昧后が、こっちをじっと見上げている。
「海棠ーッ!!待ちくたびれたぞ。早く陣形の指示をッ」そこから少し西の方へ見える驍大人が―⋯叫んでいる。いつの間に、現場に戻っていたのだろう。
悪獣が後を絶たないのは、まだ根本的に事態が収集していない証拠だ。
「⋯⋯」
有昧后の背後では、契さんが率いる商の者たちが―⋯忙しく資材を仕分けし、各所へと班をつくり―⋯運んでいた。そして―⋯有昧軍や北溟軍、その軽症者たちが、必死に手を動かして製造過程に勤しんでいる。
トリアージは延々と続いている。福を筆頭に、要領を得た軍の者たちも⋯即座に判断し、現場を回している。まさに、縦横無尽。
獯鬻達は南方の川下の方へと移動して―⋯なおも、川の勢いを調整すべく土木作業に明け暮れていた。
『使える物は何でも使え』有昧后が先ほど言っていた言葉の意を、噛みしめる。
そうだ。いくら軍営拠点で仕切り直しの後半キックオフの号令をあげたって。そんなの―⋯ポーズに過ぎない。
ハーフタイムと思わしきあの時間は、有昧后における強制撤去。選手交代の意。
こうして現場を見れば―⋯。誰も休まずに戦い続けているのだ。
私だけが―⋯離脱したのだ。
ハーフタイムなどとは、勘違いも甚だしい。
誰にも届くわけがない号令は、傲慢なポーズに過ぎない。
有昧后に宣言した通りだ。
私はボランチであり、俯瞰的に考え―⋯局面を打破していくプレイヤー。
『―⋯ボランチは全体を考えるバランサーだから⋯1点を鋭く狙うFWとは違います。ゴリゴリのストライカータイプではないことをご察しいただいたんですね。英明です、有昧后』
それから―⋯戦況みて、常に流動しながら、相手を導く役割。
『視点を変えてみて下さい。分かりやすくいいましょう。つまり、1点を狙うその道中へと相手を導くのが私の本職とも言えるんです。1点を見逃さぬよう、楔を打ち局面を切り拓く。つまり―⋯対自分、ではなくて、相手在りき。その相手が、有昧后。貴方であると。ですから―⋯自分の欠点など分かっています』
それらは全て、自分も現場にて、肌で感じて、初めて判断できることだ。
空に浮かぶ循環図と―⋯青い鳥の号砲と、準備は全て―⋯整った。
私にできることを―⋯!!
乾いた泥埃が⋯視野を茶色に染める。
それが―⋯去っていく頃。
シマエナガの名残りであろうか?あの愛らしい瞳はそのままに、けれど神格ある視線で⋯その青い鳥はこっちを見ていた。
ふと思う。
この者は、ただの渡り鳥であろうか?
それとも、博益がひき寄せた鳥であろうか?
それとも。有昧后に従う者であろうか?
いや。そのどれとも違う気がする。
私の直感が、そう言っている。
有昧后が1度突き離したのには―⋯彼のことだ、何か理由があるのだろう。
しばし―⋯人間VS鳥の睨めっこが続く。
この鳥が悪獣や凶獣であれば、腕輪が反応するだろう。でも、そうならない。
鬼畜な軍師ならば、あの雨の日のように―⋯一瞬で地の海にすることだって出来た筈。でも、そうはしない。
鸞鳥さえ魅了した博益が、上空に留まったまま⋯この鳥に近づいてさえ⋯来ない。
私の元に落ちてきたのは―⋯本当に偶発的なものなのか?
彼らの守備範囲ではない⋯者なのか?
と、じっとその瞳だけを直視していたのが仇となった。
大きな羽がスパンッと私の足元を弾くと⋯
バランスを失った身体は、そのまま倒れこんで。
掬い上げられるかのようにして―⋯その鳥の背に乗せられてしまったのだ。
「あ〜ッ!」と叫んでも、ときは既に遅し。
まさに背後からスライディングでボールを刈られ、局面が変わる一瞬の如し。
みるみるうちに上空へと―⋯連れ出されてしまったのだ。
けれど―⋯
「ん?」
すぐに、不思議な心地よさに気づく。愚強のような粗々しさもない。博益の黒い鳥のような―⋯フワッと感もない。
まるで私の意を汲み取るようにして―⋯その高度や方角を、滑らかに変えていくのだ。
遠くに―⋯豆粒のような有昧后が、こっちをじっと見上げている。
「海棠ーッ!!待ちくたびれたぞ。早く陣形の指示をッ」そこから少し西の方へ見える驍大人が―⋯叫んでいる。いつの間に、現場に戻っていたのだろう。
悪獣が後を絶たないのは、まだ根本的に事態が収集していない証拠だ。
「⋯⋯」
有昧后の背後では、契さんが率いる商の者たちが―⋯忙しく資材を仕分けし、各所へと班をつくり―⋯運んでいた。そして―⋯有昧軍や北溟軍、その軽症者たちが、必死に手を動かして製造過程に勤しんでいる。
トリアージは延々と続いている。福を筆頭に、要領を得た軍の者たちも⋯即座に判断し、現場を回している。まさに、縦横無尽。
獯鬻達は南方の川下の方へと移動して―⋯なおも、川の勢いを調整すべく土木作業に明け暮れていた。
『使える物は何でも使え』有昧后が先ほど言っていた言葉の意を、噛みしめる。
そうだ。いくら軍営拠点で仕切り直しの後半キックオフの号令をあげたって。そんなの―⋯ポーズに過ぎない。
ハーフタイムと思わしきあの時間は、有昧后における強制撤去。選手交代の意。
こうして現場を見れば―⋯。誰も休まずに戦い続けているのだ。
私だけが―⋯離脱したのだ。
ハーフタイムなどとは、勘違いも甚だしい。
誰にも届くわけがない号令は、傲慢なポーズに過ぎない。
有昧后に宣言した通りだ。
私はボランチであり、俯瞰的に考え―⋯局面を打破していくプレイヤー。
『―⋯ボランチは全体を考えるバランサーだから⋯1点を鋭く狙うFWとは違います。ゴリゴリのストライカータイプではないことをご察しいただいたんですね。英明です、有昧后』
それから―⋯戦況みて、常に流動しながら、相手を導く役割。
『視点を変えてみて下さい。分かりやすくいいましょう。つまり、1点を狙うその道中へと相手を導くのが私の本職とも言えるんです。1点を見逃さぬよう、楔を打ち局面を切り拓く。つまり―⋯対自分、ではなくて、相手在りき。その相手が、有昧后。貴方であると。ですから―⋯自分の欠点など分かっています』
それらは全て、自分も現場にて、肌で感じて、初めて判断できることだ。
空に浮かぶ循環図と―⋯青い鳥の号砲と、準備は全て―⋯整った。
私にできることを―⋯!!