海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
さて―⋯。

問題は、遊撃を担う有昧軍と北溟軍の終わりなき戦いだ。

燭陰の熱流と北の混沌とした淀んだ空気に引きつけられるようにして―⋯湧き出てくる悪獣。

キリもなく、躍起となって戦う他ないのか?

治水と物流、そしてトリアージはもう形として出来上がっている。

怪我人が続出し、最も今危険な現場が―⋯ここだろう。

「博益!私たちも加勢を」

博益の黒い鳥と、私が乗る青い鳥とが時に並行し、時に交差して―⋯近くを飛んでいく。我々の意思でそうさせているのか、この子たちの本能なのかは分からないけれど―⋯まるで息を合わせているかのような空の競演。

ふと、この2羽の優等生達の名を知りたくなった。

世話になっているのに、名前すら呼ばずに【鳥】などとは―⋯恩人に対し礼を欠く行為だ。

「⋯⋯。博益、貴方の乗る燕のような黒い鳥の名前は?」

艶のある黒色。主同様に、気品と知性を感じさせる―⋯、佇まい。

「玄鳥だ」

ビュン、と目の前を横切り、その漆黒の翼を誇らしげに見せつける―⋯玄鳥。

「玄鳥―⋯。なるほど」

【玄】の字は黒を指す。

古代中国における五行思想では、北を意する。

畢方(ひっぽう)やシュンのように、その特徴的な鳴き声から取る名もあれば―⋯鸞鳥(らんちょう)のように、見た目から相応しい名をつける場合もある。

そうすると―⋯、美しく、賢いこの子は?

「私が乗ってるこの子の名は?」

博益ならば―⋯自身が付けたか、知っているか、どちらにせよ記録に書き記しているはずだ。

そう思ったのに―⋯

「気に入ったのなら、名をつければよい」

と、にこやかにスルーされてしまった。

宝石のような―⋯美しい青。気高さと、優雅さをと揃えたこの子は―⋯土と血まみれ、根性ばかりで生を全うする私とは―⋯対極の存在。

よもやすると―⋯この神々しさは、鸞のような瑞獣ではないだろうか。博益の笛に惹かれたのか、ここにいる者たちの知性に引き寄せられたのか。

鸞翔鳳集(らんしょうほうしゅう)

まさに、優れた才能を持つ人物たちが、一か所に集まっているのだから。

「⋯⋯青い⋯鳥」

青もまた―⋯五行思想に当て嵌まり、尊ばれる色だ。青。青。

黒を玄とするなら―⋯最も格式高い青といえば。

(あお)⋯。わかった、【蒼鳥(そうちょう)】じゃない?」

「なるほど、良い名だ」

博益はくすりと笑う。

けれど―⋯その名を、木札に刻もうとする素振りすらも―⋯見せなかった。

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