海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
6.5章〜The other side of the story〜

愛と正義の狭間に眠る、不老不死の空白

海棠や博益が血と泥にまみれながら、凶獣らと対峙している頃だった。

鐘山の―⋯永久凍土の奥深く。風も、音も、時すらも遮断されたその地で、開かれたままの両眸が【信念】を湛えたまま、浮游をじっと真っ直ぐに見据えていた。

異変を知らせたのは、愚強であった。燭陰の熱を冷風で仰ぎ、死者へと弔いの風を吹かせていた北の神が⋯不意に、その風の音が突如スッと消え去るその不思議な瞬間をとらえた。

任を全うしながら、上空を旋回し⋯その違和感を即座に浮游へと報告したことが始まりであった。

浮游が赴いたその場所は―⋯ここに住む者も知らない、天帝の光明さえ届かぬ鐘山の『割れ目』。何千枚もの万年氷の刃が、巨大な檻のように囲い、世界のあらゆる視線から永遠に遮絶していた。

燭陰の熱が臨界点を迎えた時。その絶対的秩序に、ひびが入ったのだ。

浮游がその閉ざされた迷宮に足を踏み入れた時。

その入り口に鎮座した、一羽の鳥が目に入る。翼を開きかけて―⋯そのまま静止している、剥製のような、妙な姿。

(⋯⋯運の悪い鳥だ)

風の音すら圧殺された、時間が死んだ絶対の静寂。因果の糸すら届かぬその氷盤は、まさに神々さえもすり抜ける『世界の空白』だ。

劈くような冷たさの中⋯浮游が吐く白い息が、そのまま宙にピタリ、とその場に留まる。そして⋯見えない壁に圧殺されるように、一瞬でかき消されて消滅していく。生者のもたらす「熱」や「時間の流れ」すら、この空間の絶対的な冷徹さは、一秒たりとも存在することを許さないのだ。

そう、その歩みを踏みしめる音さえも聞こえずに。まるで、ここに自分が存在すらしていないのではないかと錯覚するほどだった。

その分、研ぎ澄まされていく五感でふと―⋯痛烈な視線をとらえた。

その視線の主は、まるで今まさに瞑想を始めたかのように、氷の台の上で微塵の乱れもなく、結跏趺坐の姿勢で座していた。凍りついたその姿は、何千年の時を経てもなお、侵しがたい神の威厳を放っている。

そして―⋯その瞳は、その両眸は。ハッキリと浮游の姿を映し出していた。

睫毛が霜で覆われて―⋯閉じることすらできないのか?

いいや、違う。

開いた―⋯瞳孔。

もう既に、この者の魂がそこにはないことを露呈しているのに。何かをまるで訴えているようだった。

ふと、この顔に見覚えがある気がして。

浮遊は―⋯静かに膝を折って、その顔に手を伸ばす。

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