海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
7章 弔いの治熱

25話 風見鶏の憂鬱〜忘川の天秤に抗う者たち〜


私と博益は、1度軍営基地へと引き返して。次のフェーズへ向かうべく準備を整える時間をとることにした。

幾日も現場に立ち続けていたが―⋯決して休んでいない訳ではなかった。

交代で食事も摂れば―⋯睡眠だってとる。

それらは、裏舞台すらも完璧に整えている有昧后の知られざる働きと、途切れのない商の支援物資のこの流動性がものを言うのだろう。

そして―⋯有昧軍の軍令でもる。

そう考えたら、確かに有昧の地に捕らわれても最低限の【衣・食・住】は用意されていた。

有昧后は―⋯基本的人権を尊重しているようだ。

(ん?日出る国と同様か?)

さて。私たちが陣営に到着する頃、この2大ツートップ(FW)は⋯既にゴールへと向かって頭を突き合わせていた。

契が作り出した、シーリング剤で⋯複雑な嵌合の青銅パイプの繋ぎ目がしっかりと補強されていく。

太さの違う2つのパイプを重ねる、この構造は―⋯?

その穴の断面から、中を覗いてみると。

内側の細いパイプの、そのまた内壁に螺旋が描かれていた。

「⋯⋯?どうやって彫ったんだろう」

素朴な疑問を、有昧后の背中にぶつけるが―⋯いつにもまして不機嫌そうな彼は、当然相手などしてくれない。

久々に顔を合わせるというのに、冷たい男だ。

横からひょい、と博益がそれを覗きこむと「彫ったのではない。鋳込んだのだ」とほうっと息を吐いてすっかり感心しているようだった。

そんな彼の人間味に、私もつられてホッとする。

ここはシゴデキ契の、出番である。即座に、端的に―⋯非常にわかり易くその鋳造方法を説明してくれた。

つまりのところ、古代の中子の技術の応用である。

ザッと言えばパイプの中身になる粘土の芯の表面に、あらかじめヘラで螺旋の筋を彫っておき、そこに青銅を流し込んで、固まった後に中の粘土をぶっ壊せば、内壁に完璧な螺旋溝ができる。⋯ということだと理解してみた。

縄文時代からあった、紋様付けそのものではないか。

「でもなぜ、また【螺旋】―⋯?」

彼が循環図に上書きした螺旋の意が、ここにもあった。

有昧后は面倒くさそうに―⋯こちらを見向きもせずに答える。

「冥界は、地下の忘川より更に地層深くにある。こことは気の巡りや重みが違う」

(気の―⋯巡りに、重み?)

現代語に通訳するならば―⋯ここが山頂で、冥界が地上だと置き換えれば。

「気圧差―⋯、か」

妙に―⋯納得する。するとこの螺旋の働きとは?

「愚強の風を流し込み、熱を回転させ渦流にする算段だな?」

博益が即座に理解するものの、この物理的な道理はどうも私の脳裏では処理しきれない。聡明なる男たちに語らせようじゃないか。

「この気の巡りを調節することで、逆流や管の破裂を防ぎ、へと排熱させることが可能だ」

博益のパスを受け、今度は契が、一番知りたかった答えをズバっと教えてくれた。

心の中の実況解説者が『ゴォォ〜〜〜ル!!』と叫ぶ。

なるほど。深読みせずに、熱を流せばいいなどと安直に考えていた自分を恥ずべきかもしれない。気圧差を相殺する減圧弁のような仕組みとして、取り入れた、ということか。

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