海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「⋯⋯では、海棠。どう考えるのだ?」

「人間としての生を終えて、忘川に入ったのでは?だから記憶があやふやだったりすっぽり抜けている部分が」

「冥界の審判を受けて、再び人間として生を受けたのであれば⋯人間界へと送り込まれる筈だ。ん?そなたは―⋯もしや花の精であるとか?」

「⋯海棠を握っていたから?いやいや、そんな安直な。どう見ても⋯人間でしょ。霊力?神力?まあどっちでもいいけど、それがあれば、もっと楽に生活してるよ」

「ハハっ、それはそうだな。そうであれば、既にそなたはそなたではないやもしれぬ。では―⋯別の角度から考えてみよ。忘川の側で倒れていたのなら、そもそも渡れてすらおらぬ⋯頑固者であった、と。先ほど言ったであろう?拒絶して渡らぬ者には罰が下されると。つまり、忘川に入ったものの、突っぱねた結果⋯人間として、この過酷な天妖界で生きる運命を定められた、と」

「面白い仮定だし、十分有り得そう。けれど―⋯心情的に、それはないと断言できる。人間はいつか死ぬ。死んで後悔するような生き方をしていたとは、思えない。それに―⋯秦広王や閻魔に興味があるくらいだし。むしろ行く末をワーワー言いながら、俯瞰してそうじゃない?」

「⋯⋯物凄い説得力だ。同意しようじゃないか」

埒があかぬ忘川談義。流石に―⋯解決には至らずとも、十分にその性質を理解できてきた。漠然とした不安も解消されて、やはりこの人に喋って良かったと、つくづく思うのであった。

「そう言えば、もうひとつあるが―⋯」と、博益が口を開いたその時だった。

非情な男、有昧后が⋯いつの間にやら洞窟の入口に立っていて。

それを見つけた我々は―⋯瞬時にして、口を噤んだ。

が。意外なことに⋯咎めることもせず、蔑みもせずに、睨むわけでもなく。有昧后はスッと静かに、その場を去っていったのだった。

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