海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
忘川を渡るには、徒歩か舟であろうと思ったが⋯大鶚を射てまで連れて来た理由がそこにあった。
完全なるアシであった。
最小限の怪我で留めたのは、この役割を考慮していたのだろう。
川をゆっくりと歩き渡っていく者たちを尻目に―⋯この大鶚は、一直線に、その頭上を渡っていく。とはいえ―⋯凶獣だ。振り落とすような愚行を働くかもしれない。
けれど、そんな考えがそもそも杞憂であった。
先ほどの博益の話を聞く限り⋯いくら凶獣なれど、神すら力が及ばぬ空間である。有昧との緩衝地を抜ければ、冥王の監視対象になる。愚行は死後の審判に直結だ。
なぜ大鶚を選んだのか、と問えば、
「お前が懐に隠しているその鳥では、この任を全うできぬだろう。臆病で話にならない」
と即答されてしまう。
それも、ごもっともである。シマエナガ化した美しき青い鳥は―⋯引っ込んだまま、出てきもしない。
(そもそも、ここにいることに気づいていたのか。隠し事すらできやしない)
博益の顔をチラッと見る。
玄鳥もまた、この空気に合わないであろう。
格式高い者達を使わない。罪人を敢えて使う。そんな使い分けが、まさに適材適所を見抜く男らしい采配であると思った。
死者の列は、無言のまま。
そして、我々には見向きもせずにひたすら歩いている。
「見えてないのかな」
「生者が見えては、心が乱されるであろう?よく見てみよ、海棠。死後に正式に弔って貰った者とそうでない者との区別がある」
「⋯⋯?」
「魂導灯だ。死者が忘川やあの世の道で迷わぬよう、足元を照らすための光として、灯籠を遺族に用意してもらっている」
博益が言うそれは⋯、提灯を持つ者のことだろう。黄色の煌々とした光がぼんやりと―⋯漂っていた。
完全なるアシであった。
最小限の怪我で留めたのは、この役割を考慮していたのだろう。
川をゆっくりと歩き渡っていく者たちを尻目に―⋯この大鶚は、一直線に、その頭上を渡っていく。とはいえ―⋯凶獣だ。振り落とすような愚行を働くかもしれない。
けれど、そんな考えがそもそも杞憂であった。
先ほどの博益の話を聞く限り⋯いくら凶獣なれど、神すら力が及ばぬ空間である。有昧との緩衝地を抜ければ、冥王の監視対象になる。愚行は死後の審判に直結だ。
なぜ大鶚を選んだのか、と問えば、
「お前が懐に隠しているその鳥では、この任を全うできぬだろう。臆病で話にならない」
と即答されてしまう。
それも、ごもっともである。シマエナガ化した美しき青い鳥は―⋯引っ込んだまま、出てきもしない。
(そもそも、ここにいることに気づいていたのか。隠し事すらできやしない)
博益の顔をチラッと見る。
玄鳥もまた、この空気に合わないであろう。
格式高い者達を使わない。罪人を敢えて使う。そんな使い分けが、まさに適材適所を見抜く男らしい采配であると思った。
死者の列は、無言のまま。
そして、我々には見向きもせずにひたすら歩いている。
「見えてないのかな」
「生者が見えては、心が乱されるであろう?よく見てみよ、海棠。死後に正式に弔って貰った者とそうでない者との区別がある」
「⋯⋯?」
「魂導灯だ。死者が忘川やあの世の道で迷わぬよう、足元を照らすための光として、灯籠を遺族に用意してもらっている」
博益が言うそれは⋯、提灯を持つ者のことだろう。黄色の煌々とした光がぼんやりと―⋯漂っていた。