海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
いつ、何がどうやってこうなったのか。
覚えがなく記憶もないけれど、目の前で【何があったのか】はよく理解できた。
では―⋯有昧后よ。
貴方は、何を狙っているの?
冥界の王よ。そして―⋯おそらく実権を握っているであろう翳大宰よ。
その意図を読み切れるの?
そして―⋯、何故かこの場に連れて来られたであろう私よ。
そもそも、冥界に来る目的は―⋯何だった?私の役割は?
有昧后が役に立たぬ者を、国と国との根幹を揺るがす政治の場に連れて来る筈もない。
ここは―⋯極めて慎重を期する交渉の場なのだ。
「博益。状況確認のためとりあえず聞くけど、渾沌はどうなった?有昧軍は?」
「⋯⋯?」
「青銅管は?ここはおそらく忘川で、冥界王に会いに来たのでしょう?」
「⋯⋯!!」
途端に、右から―⋯有昧后が。そして、左から博益が。私の両腕をガッチリと掴み取って、その身体をふわりと浮かせた。
「イテテ⋯」
有昧后の指先がちょうど、腕の傷を抉るような強さで―⋯食い込んでいた。この怪我こそ、【ついさっき】負ったばかりのように感じていたのに。
「察するに、ちょっと記憶が飛んだようだけど。これ、支障ある?」
すると今度は、男2人、顔を見合わせて。
そしてまた同時に私の顔をじっと見る。
「ああ、支障あるってことね。オッケー、理解した。有昧后、⋯冥界王への説明は私には最早できない。貴方に指摘された欠陥をまだ理解していない。そして博益、申し訳ないけれど、直近の私の記憶を再インストールして欲しい」
「さい、いんす⋯。⋯すまない、何と申した?」
「手短に、直近の状況説明を。記憶の欠落を補填し、再び定着させる」
「ならば⋯」と、博益が口を開いた所で、有昧后が更に腕をぐいっと引き上げ―⋯その肩に、私の身体を乗せた。
ふむ、これは忘れていない。必殺【雑巾がけ】だ。
すると、有昧后は問うた。「その腕の傷は?」と。鐘山の麓、その平原で怪我を負ったあと、アドレナリンでも流れていたのか?覚えていたが―⋯答えられずに返事に困ると、その袖を捲くられてしまう。
見つかった。
いつだったか、彼が言っていた。
『有昧の矢は、殺傷力の高い独自の技術を用いた⋯矢尻だ。見よ、人間界でも、かような形状の物はないのではないか?』と。分からぬ筈が、ない。
けれど彼は何も言わぬまま、自身が着ていた黒い外套を―⋯バサリと私の身体に掛けたのだった。
そうして、有昧后は幽都大帝に真っ向から向かい、担がれた私は―⋯後ろ向きのまま博益と対峙する。
博益がどこまで真を語ったかはわからないが、まるで箇条書きで要点を伝えるかのようにして。
そして、私に問いかけて考えさせることで―⋯博益は、瞬時に私の【欠落】を補填していく。それは、鮮明に、おそらく自分が知る記憶(ソレ)よりも深く、正しく。
やがて、風見鶏男の、のらりくらりとした発言が耳に届くようになってきて。流石にそちらの動向が気になって来た私は、よいしょ、と、有昧后の首に腕を絡めて⋯背中側へと移動する。
滑稽なり。
初のおんぶ状態だ。
博益もまた、冥界の王のふわふわとした発言にはやや呆れた様子で―⋯「海棠よ。注意すべきは、翳大宰の方だ」と耳打ちしてきた。
彼は、前に進み出ると、言葉とは裏腹にしっかりと礼を尽くして、傍若無人な有昧后の言葉を軟化して丁寧に説明し始めた。
なるほど。
博益を連れてこようと思った有昧后の意図がよーくわかる。
覚えがなく記憶もないけれど、目の前で【何があったのか】はよく理解できた。
では―⋯有昧后よ。
貴方は、何を狙っているの?
冥界の王よ。そして―⋯おそらく実権を握っているであろう翳大宰よ。
その意図を読み切れるの?
そして―⋯、何故かこの場に連れて来られたであろう私よ。
そもそも、冥界に来る目的は―⋯何だった?私の役割は?
有昧后が役に立たぬ者を、国と国との根幹を揺るがす政治の場に連れて来る筈もない。
ここは―⋯極めて慎重を期する交渉の場なのだ。
「博益。状況確認のためとりあえず聞くけど、渾沌はどうなった?有昧軍は?」
「⋯⋯?」
「青銅管は?ここはおそらく忘川で、冥界王に会いに来たのでしょう?」
「⋯⋯!!」
途端に、右から―⋯有昧后が。そして、左から博益が。私の両腕をガッチリと掴み取って、その身体をふわりと浮かせた。
「イテテ⋯」
有昧后の指先がちょうど、腕の傷を抉るような強さで―⋯食い込んでいた。この怪我こそ、【ついさっき】負ったばかりのように感じていたのに。
「察するに、ちょっと記憶が飛んだようだけど。これ、支障ある?」
すると今度は、男2人、顔を見合わせて。
そしてまた同時に私の顔をじっと見る。
「ああ、支障あるってことね。オッケー、理解した。有昧后、⋯冥界王への説明は私には最早できない。貴方に指摘された欠陥をまだ理解していない。そして博益、申し訳ないけれど、直近の私の記憶を再インストールして欲しい」
「さい、いんす⋯。⋯すまない、何と申した?」
「手短に、直近の状況説明を。記憶の欠落を補填し、再び定着させる」
「ならば⋯」と、博益が口を開いた所で、有昧后が更に腕をぐいっと引き上げ―⋯その肩に、私の身体を乗せた。
ふむ、これは忘れていない。必殺【雑巾がけ】だ。
すると、有昧后は問うた。「その腕の傷は?」と。鐘山の麓、その平原で怪我を負ったあと、アドレナリンでも流れていたのか?覚えていたが―⋯答えられずに返事に困ると、その袖を捲くられてしまう。
見つかった。
いつだったか、彼が言っていた。
『有昧の矢は、殺傷力の高い独自の技術を用いた⋯矢尻だ。見よ、人間界でも、かような形状の物はないのではないか?』と。分からぬ筈が、ない。
けれど彼は何も言わぬまま、自身が着ていた黒い外套を―⋯バサリと私の身体に掛けたのだった。
そうして、有昧后は幽都大帝に真っ向から向かい、担がれた私は―⋯後ろ向きのまま博益と対峙する。
博益がどこまで真を語ったかはわからないが、まるで箇条書きで要点を伝えるかのようにして。
そして、私に問いかけて考えさせることで―⋯博益は、瞬時に私の【欠落】を補填していく。それは、鮮明に、おそらく自分が知る記憶(ソレ)よりも深く、正しく。
やがて、風見鶏男の、のらりくらりとした発言が耳に届くようになってきて。流石にそちらの動向が気になって来た私は、よいしょ、と、有昧后の首に腕を絡めて⋯背中側へと移動する。
滑稽なり。
初のおんぶ状態だ。
博益もまた、冥界の王のふわふわとした発言にはやや呆れた様子で―⋯「海棠よ。注意すべきは、翳大宰の方だ」と耳打ちしてきた。
彼は、前に進み出ると、言葉とは裏腹にしっかりと礼を尽くして、傍若無人な有昧后の言葉を軟化して丁寧に説明し始めた。
なるほど。
博益を連れてこようと思った有昧后の意図がよーくわかる。