海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
26話 そして、神は目を瞑る
忘川の入口、有昧へと到着すると。
途端に蒼鳥は低空飛行した後に急激にシュウ―⋯と萎んでいって、危惧したその通りにシマエナガ化してしまった。
あの洞窟の前にちょこんと座り込んだかと思うと、「ピッ」と有昧后にそっぽを向いて。まるで鐘山行きを拒否しているかのようだった。
「ここに入っていく?」私が自分の懐を指して諭すものの⋯どうやらご機嫌斜め。
やはりぷいっと、あさっての方向を見るのだった。
「織り込み済みだ」
有昧后は、今度はそっと掬い上げるかのようにして両手でその身体を持ち上げると⋯。
自分の目の高さで、その手を止める。
無骨な人差し指で【ちょん】と頭を弾いてやると⋯目を逸らしていたシマエナガは、いよいよその愛くるしい視線を有昧后へと向けたのであった。
「⋯⋯」
有昧后は、何も言わない。
自分に利がなければ捨て置くと、平気で罵る鬼畜な男だというのに⋯果たして本当にそうなのだろうか?
蒼鳥へ向けた眼差しは、今まで見てきた【后】の高潔で鋭い眼差しとも、どこか深淵なる愁をもつ【浮游】のものとも、また違う。
もっと、何て言うのだろう?
神性なる高貴さ、とでも言おうか。
とにかく、初めて見るような目の表情をしているのだ。
織り込み済みだという、その言葉通りに⋯彼は蒼鳥を拘束するなどしなかった。
「役目を全うせよ」
そんなひと言を掛けたかと思うと。両手を前へと差し出し、その手と手を広げて―⋯有昧の空へと、放ったのだった。
割り込めない空気感に、私は礼も別れの言葉も言えずに、蒼く澄んでいく空を⋯ただ見つめることしかできなかった。
側に立つ博益が、共に見送りながら、呟く。
「青鳥。見た通りに青い鳥、と書く」
「⋯私の予想が当たったんだね。何?なぜ今頃答え合わせを?」
「いや、深読みし過ぎて実に惜しかったゆえ⋯つい」
「そっか。⋯ねえ、あの子はどこに?」
「元いた場所へと帰ったのであろう。あの者は―⋯よく耐えたかと」
「元いた⋯場所、か」
出会った時に、博益は言っていた。
【神は縁ある場所へ、人を還す】と。
故郷であるのか、縁ある場所であるのかは⋯わからないけれど。帰れる場所があるのなら、確かにそうすべきだ。
ここ―⋯有昧に。私も早く戻りたい、とそう思っていたのに。
いつの間にやら、背後から⋯大きな掌が、私の腕をガッチリと掴み取っていた。
振り返ればそこには、いつもの冷徹なグレーの目を携えた【有昧后】が立っていて。まるで「まだそれは許さぬ」とでも言って脅しかけているかのようだった。変わり身の―⋯早さよ。
「行くぞ」
有昧后はその手を引き寄せて、雑に肩へと担いだかと思うと⋯。
「お前は玄鳥と共に」
そう、博益へと言い残して。
有昧の地から⋯強制撤去したのだった。
途端に蒼鳥は低空飛行した後に急激にシュウ―⋯と萎んでいって、危惧したその通りにシマエナガ化してしまった。
あの洞窟の前にちょこんと座り込んだかと思うと、「ピッ」と有昧后にそっぽを向いて。まるで鐘山行きを拒否しているかのようだった。
「ここに入っていく?」私が自分の懐を指して諭すものの⋯どうやらご機嫌斜め。
やはりぷいっと、あさっての方向を見るのだった。
「織り込み済みだ」
有昧后は、今度はそっと掬い上げるかのようにして両手でその身体を持ち上げると⋯。
自分の目の高さで、その手を止める。
無骨な人差し指で【ちょん】と頭を弾いてやると⋯目を逸らしていたシマエナガは、いよいよその愛くるしい視線を有昧后へと向けたのであった。
「⋯⋯」
有昧后は、何も言わない。
自分に利がなければ捨て置くと、平気で罵る鬼畜な男だというのに⋯果たして本当にそうなのだろうか?
蒼鳥へ向けた眼差しは、今まで見てきた【后】の高潔で鋭い眼差しとも、どこか深淵なる愁をもつ【浮游】のものとも、また違う。
もっと、何て言うのだろう?
神性なる高貴さ、とでも言おうか。
とにかく、初めて見るような目の表情をしているのだ。
織り込み済みだという、その言葉通りに⋯彼は蒼鳥を拘束するなどしなかった。
「役目を全うせよ」
そんなひと言を掛けたかと思うと。両手を前へと差し出し、その手と手を広げて―⋯有昧の空へと、放ったのだった。
割り込めない空気感に、私は礼も別れの言葉も言えずに、蒼く澄んでいく空を⋯ただ見つめることしかできなかった。
側に立つ博益が、共に見送りながら、呟く。
「青鳥。見た通りに青い鳥、と書く」
「⋯私の予想が当たったんだね。何?なぜ今頃答え合わせを?」
「いや、深読みし過ぎて実に惜しかったゆえ⋯つい」
「そっか。⋯ねえ、あの子はどこに?」
「元いた場所へと帰ったのであろう。あの者は―⋯よく耐えたかと」
「元いた⋯場所、か」
出会った時に、博益は言っていた。
【神は縁ある場所へ、人を還す】と。
故郷であるのか、縁ある場所であるのかは⋯わからないけれど。帰れる場所があるのなら、確かにそうすべきだ。
ここ―⋯有昧に。私も早く戻りたい、とそう思っていたのに。
いつの間にやら、背後から⋯大きな掌が、私の腕をガッチリと掴み取っていた。
振り返ればそこには、いつもの冷徹なグレーの目を携えた【有昧后】が立っていて。まるで「まだそれは許さぬ」とでも言って脅しかけているかのようだった。変わり身の―⋯早さよ。
「行くぞ」
有昧后はその手を引き寄せて、雑に肩へと担いだかと思うと⋯。
「お前は玄鳥と共に」
そう、博益へと言い残して。
有昧の地から⋯強制撤去したのだった。