海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
そして―⋯スクリーンがその光を消し去ろうというその時。その映像が⋯ガタガタと揺れ始める。
「⋯⋯!!」
その振動は、そのまま⋯地上まで伝わってきて。温かい時間が、夢に終わってしまうのではないかと―⋯急激に不安になった。
青銅管が⋯軟化し歪みを生み始めたのだろう。
鐘山の地が、揺れている。
「案ずるな。お前の策が、崩れることはない」
有昧后はそう言って、けれどこちらを見ようとはしない。
博益もまた、「大丈夫だ」ときっぱりと言い切って。
そして⋯有昧后の元へと駆けつける。
「手を貸そう」
博益が、その霊力を使い始めるとほぼ同時に―⋯おそらく、共鳴した有昧后の仲間達のものであろう。各々の持ち場から、限界を迎えた鐘山の窮地をなんとかしよう、と。四方八方から次々と眩い光が飛んできて、螺旋の中心へ―⋯煌々とその力を放ちはじめたのだった。
すると、上空の彼方から⋯それに呼応するかのように。
悲痛な鳴き声が、この鐘山の空いっぱいに響き渡ってきた。
『シュン……ッ! シュンッ!シュンチャオ……ッ!』
自分の名前を、千切れるほどに叫ぶ異形の鳥の悲鳴。
私は空を見上げて⋯そして思うのだった。
あの者は、精一杯自分の名前を叫んでる。でも、きっとそれだけじゃない……。燭陰の息子で、自身も神であった筈の【鼓】。父親は、声を出すことも、息を吐くこともできぬ偉大な神。
ずっと、父親に自分の名前を呼んで欲しかったのでは?自分を見て欲しかったのでは?
認めて⋯貰いたかったのでは?
自分の罪も認め、贖罪しているのかもしれない。
悪獣なんかじゃない、許して、と。
神様の息子としての本当の名前を⋯呼んで欲しいのに。その名を名乗ることも、もうできない。父を苦しめたくないのに、苦しめている。
燭陰もまた、息子の熱を受け続けるなんて―⋯。
「そうだとしたら⋯本当、愛し方まで不器用な親子だ」
『シュン⋯!』
その鳥は、最後にもうひと鳴きして。父の頭上をおおきく1度旋回すると⋯
ものすごいスピードでどんどん加速しながら、空の彼方へと消えていった。
「⋯⋯シュン。シュンよ!何処へ行く?!」
博益が、その後ろ姿へと向かって叫んでいた。
やがて⋯彼の青銅鏡が、また桜色に輝いて。最後に観たあの場所が、再び地上へと映し出される。
そこには⋯翳大宰が映っていて。彼もまた、暗闇を貫くパイプへと向けて―⋯己の身を削るようにして、暴発を防ごうと奮闘している。
「⋯翳大宰」
すると⋯そこに。大きな影が、ビジョンいっぱいに映し出された。
端に小さく見えていた翳大宰が、そちらへと振り返ると。その者へと向かって、何かを⋯投げた。
『シュン、シュン⋯ッ!!』
地上の青銅パイプ入口から、その、最期の鳴き声が⋯かすかに漏れ聴こえてきて。
彼は、忘川の終着点。その先の、霧の中へと吸い込まれるかのようにして―⋯消えていったのだった。
「シュン⋯」
博益が―⋯ホログラムへと手を伸ばして。けれどその幻影は、掴むことも出来ずに⋯宙を切った。
【シュン】は―⋯、燭陰の息子、【鼓】は。
自ら命を絶つことで、この負の連鎖を断ち切ろうとしたのか?
真相は、藪の中だ。
「⋯⋯!!」
その振動は、そのまま⋯地上まで伝わってきて。温かい時間が、夢に終わってしまうのではないかと―⋯急激に不安になった。
青銅管が⋯軟化し歪みを生み始めたのだろう。
鐘山の地が、揺れている。
「案ずるな。お前の策が、崩れることはない」
有昧后はそう言って、けれどこちらを見ようとはしない。
博益もまた、「大丈夫だ」ときっぱりと言い切って。
そして⋯有昧后の元へと駆けつける。
「手を貸そう」
博益が、その霊力を使い始めるとほぼ同時に―⋯おそらく、共鳴した有昧后の仲間達のものであろう。各々の持ち場から、限界を迎えた鐘山の窮地をなんとかしよう、と。四方八方から次々と眩い光が飛んできて、螺旋の中心へ―⋯煌々とその力を放ちはじめたのだった。
すると、上空の彼方から⋯それに呼応するかのように。
悲痛な鳴き声が、この鐘山の空いっぱいに響き渡ってきた。
『シュン……ッ! シュンッ!シュンチャオ……ッ!』
自分の名前を、千切れるほどに叫ぶ異形の鳥の悲鳴。
私は空を見上げて⋯そして思うのだった。
あの者は、精一杯自分の名前を叫んでる。でも、きっとそれだけじゃない……。燭陰の息子で、自身も神であった筈の【鼓】。父親は、声を出すことも、息を吐くこともできぬ偉大な神。
ずっと、父親に自分の名前を呼んで欲しかったのでは?自分を見て欲しかったのでは?
認めて⋯貰いたかったのでは?
自分の罪も認め、贖罪しているのかもしれない。
悪獣なんかじゃない、許して、と。
神様の息子としての本当の名前を⋯呼んで欲しいのに。その名を名乗ることも、もうできない。父を苦しめたくないのに、苦しめている。
燭陰もまた、息子の熱を受け続けるなんて―⋯。
「そうだとしたら⋯本当、愛し方まで不器用な親子だ」
『シュン⋯!』
その鳥は、最後にもうひと鳴きして。父の頭上をおおきく1度旋回すると⋯
ものすごいスピードでどんどん加速しながら、空の彼方へと消えていった。
「⋯⋯シュン。シュンよ!何処へ行く?!」
博益が、その後ろ姿へと向かって叫んでいた。
やがて⋯彼の青銅鏡が、また桜色に輝いて。最後に観たあの場所が、再び地上へと映し出される。
そこには⋯翳大宰が映っていて。彼もまた、暗闇を貫くパイプへと向けて―⋯己の身を削るようにして、暴発を防ごうと奮闘している。
「⋯翳大宰」
すると⋯そこに。大きな影が、ビジョンいっぱいに映し出された。
端に小さく見えていた翳大宰が、そちらへと振り返ると。その者へと向かって、何かを⋯投げた。
『シュン、シュン⋯ッ!!』
地上の青銅パイプ入口から、その、最期の鳴き声が⋯かすかに漏れ聴こえてきて。
彼は、忘川の終着点。その先の、霧の中へと吸い込まれるかのようにして―⋯消えていったのだった。
「シュン⋯」
博益が―⋯ホログラムへと手を伸ばして。けれどその幻影は、掴むことも出来ずに⋯宙を切った。
【シュン】は―⋯、燭陰の息子、【鼓】は。
自ら命を絶つことで、この負の連鎖を断ち切ろうとしたのか?
真相は、藪の中だ。