海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
地震の怒号が、ピタリと止んで。

辺りは静寂に―⋯包まれる。

パイプを削るあの高音も、歪んでいく重低音も、冥界へと吸い込まれていくように⋯収束していって。

愚強の羽のひと振りが―⋯熱を一掃し、涼しい風を運び出す。

皆、一斉に―⋯見上げた。

黙して秩序を守る、神の顔を。

その神―⋯燭陰は、小さく息を吐いて。

相も変わらず、山肌に身体を巻き付けたまま⋯

そして、その瞳を閉じたのだった。

ゆっくりと空は暗くなり、そこからぽつり、ぽつりと雨が降り注いできた。

冷たい―⋯雨。

冥界に降らせた温かい雨と同じように。

灼熱地獄であった鐘山への、どこぞの神から贈られた、慈悲であるのかもしれない。

その雨は―⋯私をも優しく濡らして。

そして、博益の頬に⋯まるでひと雫の涙をもたらすかのように。しとしとと⋯降るのだった。

「終わった⋯のか?」

くるりと有昧后の方へと向いて。その表情を確認する。

彼は天を見上げることも、地を覗くこともしない。ただ、前髪の隙間から、凍てつくような冷徹な双眸で、世界の終わりと始まりを見つめている。

皆が⋯哀しみや喜びを感じている中でたった1人。なぜそんなにも、冷静でいられるのだろう?

ひと筋の大きな雫が、その黒紅梅の髪先から、躊躇うように彼の端正な眉間へと滴り落ちる。

その静かな水滴の動きが、彼の頑なな冷徹さの奥にある、剥き出しの男の色香をいやが応にも際立たせていくのだった。

その雨はやがて―⋯雪へと変わり。

北の地に、冬の知らせが訪れる。

「⋯⋯!雪だ」

空を見上げて、思わず掌を掲げると―⋯。

雪に混ざって、はらはらと舞ってくる1枚の花びらが⋯見えた。

神がもたらした季節の歪みに、どこかに春がやって来たのだろうか。

「一体、何処から⋯?」

肩へと落ちてきた⋯その美しい花びらを、私は布の端きれの中に包んで。

そっと、懐にしのばせた。

白夜で朝か夜かもわからなかったこの鐘山の地に―⋯こうして夜がやって来たのだった。



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