海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜

27話 落日、そして⋯

上古神・燭陰が静かに両目を閉じ、鐘山を包んでいた愁いの熱風が、嘘のように凪いでいった。夜への切り替わりと共に―⋯、地上に静寂が訪れる。私は⋯確かに熱が引いていく、大地の鼓動を感じていた。

ピッチ全体を俯瞰するボランチの眼が、すべての戦術ラインの完遂を告げている。

視線の先では、役割を終えた二重青銅パイプが、冷え固まった沈黙を保っていた。

穴を穿つために、堰き止め、幾つもの遊水地へ流していた川を戻すために―⋯獯鬻や一目国はまた、交代制で工事を進める算段をとり、既に動き始めていた。

「タフだな⋯」

中原が警戒しうるその猛々しさは、損なうことはない。

私たちは、各拠点を回り⋯その現状を確認していく 。

北溟、その海もまた―⋯穏やかな凪を取り戻して。波が、静かに浜辺を行ったり来たりしていた。死んだ魚や貝が、その一面を覆うほどに⋯足の踏み場を無くしている。

愚強は、いつか見たあの巨大な海獣に化身して。広大な海を泳ぎながら―⋯その安寧を己の目で確かめていくのだった。

上古神の足元は、もはや焼け野原にも近い。まだ煙が燻る平原に、勝利の歓声はどこにもない。そこにあるのは、あまりにも重い静寂と、静かに降り始めた冬の中で、粛々と進められる⋯撤収の光景だった。

あんなにも溢れかえっていた凶獣たちは、一体何処へ消えたのだろうか。

【戦場】がそうであるように、大いなる勝利の裏には、歴史の波に消えていく一介の兵士たちの生きた証がある。軍の者たちが、互いに肩を支え合いながら⋯歩いていく。

膝をつき、涙を流しながら⋯同胞の遺体に抱きつく者も―⋯。ようやく、その死と向き合うことができたのだろう。

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