海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
するとどうだ。

軍営の奥から、麻布と獣皮を両腕に抱えた福が―⋯ヒョコリ、と顔を出した。

なるほど。寒さをしのぐ為の準備をすべく、福はここに荷をとりに来ていたのか。

「海棠、俺の出番か?」

まるで待ってました、と言わんばかり。

「待ってて。これをまず届けて来るから」

そう言うと、飛び出したままの尻尾を隠すことなくピーンと立たせて。あっという間に軍営を飛び出していった。

小麦を得て、福も協力するなら―⋯肉無し肉まんを作ることも不可能ではない。けれど、季節の変動で―⋯生地の発酵が難しくなった。ヨモギの蒸気溢れるあの天幕であれば、可能か?いいや、あの場所も時に換気もしねばなるまい。ということは、適温を保ち成功へと導く道程がまず困難だ。ましてや、怪我人や瘴気に晒された病人が多いのだ。パンよりも、消化が良く食べやすく、尚且つここにあるもので完成可能なものといえば?

「契さん。福ならば小麦を即座に精製し粉に変えることが可能です。絶品の【うどん】を作ってもらうことにしましょう。ただのうどんではなく、薬膳うどん。ヨモギの苦味は、灰の水でアクを抜けば消える。愚強の塩水で小麦粉をしっかり捏ねて、獣の骨の出汁で煮込んで⋯完成です」

私のレシピの再現は福が忠実に、かつ、天性の感覚でやり遂げることは間違いない。

その予想を裏切ることなく、次々と仕上がっていく翡翠色の麺。濃厚な骨のスープに、生姜の香りが混ざり合い、ヨモギの爽やかな風が吹き抜ける。

「福、うどんはコシが命!!」

「腰?ああ、腰の動きだな?こうか?⋯そりゃっ!!」

有昧の貯蔵庫工房の、再来である(笑)。

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