海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
しばらく歩き続けて―⋯この、共工台の森。その一際高い所に、ひっそりと佇む彼の後ろ姿を見つけた。彼の目前には、3つほどの杭が、盛土になっている地面へと突き刺さっていた。獯鬻の、蛇行杭のように見えるそれは⋯まるで、墓標そのものである。

一体、誰を弔っているのか。

その広い背に抱える重みを悟られることもなく、やはりこの人は1人で。誰にも知られずに闇に紛れて⋯ひたすら隠し通しているのだ。

私は彼の隣りに腰を掛けた。

浮游はもちろん、こっちを見向きなどしない。分かっているけど、語りかけた。思いつくままに⋯。

ひとまずこの、見事な共工台について。それから―⋯現代における【堤防】について。

災害(大震災)後に街ごと高台に作った⋯日本の流域治水。北のこの災害を―⋯重ねて。先人の偉大さと、それが現代の概念に繋がる様を切々と語った。

私たちが成し遂げたこともまた、後世には何らかの意味を残すのかも、と。

浮游が今何を思うかなんて知らない。世を救った男に、その栄誉を称える為の⋯慰めではなく、本心を語ったに過ぎない。

現代に息づく【共工】の知恵が、復興につながったのだ、と。話しているうちに、堤防に咲く桜並木⋯。日本ではよく見るような千本桜の光景が脳裏に思い浮かんだ。そしてふと、いつ、何処で見たのかも思い出せない、桜にもよく似た、けれど圧倒的に美しく咲き誇る花の姿を⋯思い浮かべたのだった。

誰かに見せたかったな、と。スマホで撮ったかもしれないな、と、漠然と―⋯そう心の中で呟いて。

< 193 / 213 >

この作品をシェア

pagetop