海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
沈黙が⋯続いた。浮游の横顔は、その表情1つも変わることはない。
「大業を成し遂げたっていうのに、全く」
喜ぶことも悲しむこともないだなんて。
余りに無反応であるが故、いつかのように目を開けたまま寝ているのでは?と、彼の目の前で手をひらつかせてみると。
その手はガッチリと掴まれて、アッサリと降ろされてしまう。
「起きてるなら反応くらいしてください。まあ⋯、おそらく誰よりも疲れたのでしょう?そのくらいは、理解しています。だから⋯」
私はそう言って、懐から【アレ】を取り出すと。逆に浮游の腕をしっかと掴み取って、くるりと掌を上にと返してやった。そして、その掌に【それ】を乗せると⋯
「⋯ッした!!」
渾身の、感謝の意と慰労の意。
試合終了後の挨拶さながらに、けれど全てを伝えるのは気恥ずかしいから。
選手権大会、冬の風物詩のそれのようにして⋯手短に伝えて。
彼に贈ったのだった。
浮游は無言のまま、己の手に握らされたそれを。懐紙を―⋯開いて確認するのだった。
契はああ言ってくれたが⋯自分を労ることすら知らぬこの男にこそ、これを贈りたかった。
「⋯⋯⋯」
浮游はありがとうなどとは言わない。ただじっと。その灰色の瞳で⋯峻烈な眼差しを向けている。
(浮游は相手の心を読もうとするときに、こういう目つきになりがちだ)
けれど―⋯他意もなく、純粋な気持ちだ。やましくもなんともない。
真っ向から受け止めてやろう、と、カッと目を見開いたそのタイミングで、浮游は石鹸へと目を移した。
どうやら―⋯気づいたらしい。
その、めずらしい一片に。
そう。石鹸を作る過程で、私の肩に落ちて来たあの【花びら】を―⋯密かに入れていたのだ。
両者共に、この花びらのことには触れずに。私たちは―⋯黙って前へと向き直していた。
鐘山の男たちであろうか⋯?火を囲い死者を弔うその鎮魂歌が止むことなく、やがて私たちの耳にも届いてきた。
私は目を瞑り―⋯名も知らぬ英雄たちへと、思いを馳せるのであった。
「大業を成し遂げたっていうのに、全く」
喜ぶことも悲しむこともないだなんて。
余りに無反応であるが故、いつかのように目を開けたまま寝ているのでは?と、彼の目の前で手をひらつかせてみると。
その手はガッチリと掴まれて、アッサリと降ろされてしまう。
「起きてるなら反応くらいしてください。まあ⋯、おそらく誰よりも疲れたのでしょう?そのくらいは、理解しています。だから⋯」
私はそう言って、懐から【アレ】を取り出すと。逆に浮游の腕をしっかと掴み取って、くるりと掌を上にと返してやった。そして、その掌に【それ】を乗せると⋯
「⋯ッした!!」
渾身の、感謝の意と慰労の意。
試合終了後の挨拶さながらに、けれど全てを伝えるのは気恥ずかしいから。
選手権大会、冬の風物詩のそれのようにして⋯手短に伝えて。
彼に贈ったのだった。
浮游は無言のまま、己の手に握らされたそれを。懐紙を―⋯開いて確認するのだった。
契はああ言ってくれたが⋯自分を労ることすら知らぬこの男にこそ、これを贈りたかった。
「⋯⋯⋯」
浮游はありがとうなどとは言わない。ただじっと。その灰色の瞳で⋯峻烈な眼差しを向けている。
(浮游は相手の心を読もうとするときに、こういう目つきになりがちだ)
けれど―⋯他意もなく、純粋な気持ちだ。やましくもなんともない。
真っ向から受け止めてやろう、と、カッと目を見開いたそのタイミングで、浮游は石鹸へと目を移した。
どうやら―⋯気づいたらしい。
その、めずらしい一片に。
そう。石鹸を作る過程で、私の肩に落ちて来たあの【花びら】を―⋯密かに入れていたのだ。
両者共に、この花びらのことには触れずに。私たちは―⋯黙って前へと向き直していた。
鐘山の男たちであろうか⋯?火を囲い死者を弔うその鎮魂歌が止むことなく、やがて私たちの耳にも届いてきた。
私は目を瞑り―⋯名も知らぬ英雄たちへと、思いを馳せるのであった。