海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
一方その頃。
博益は、弔いの火が燃えゆる、その片隅でそれを眺めながら⋯やはり削刀を進めていた。
側にいる愚強と共に、弔いの酒を撒いて―⋯それから、献杯する。
愚強は興味深げに尋ねる。
「一体何をしたためているのだ?かようなまでに熱を持って」
けれど⋯博益はその問いには答えることはない。
「なぜ⋯あの時。有昧伯は禹后を裏切る行為だと知りながら、共工や相柳を逃がしていたのだろう」
博益は逆に愚強へと問う。
博益は、浮游の禹后に対する忠誠心を知っていた。だからこそ、禹后の治水にも携わり、共工ら逆賊の討伐へも借り出された筈だったのだ。
なのに⋯この地でもまた、禹后が忌み嫌う獯鬻たち、北の異端の部族を引き連れてきた。
謀反を企てているわけでもない。けれど、腑に落ちず納得もできない。
博益はその因果を探っていたのだ。
「共工の臣は⋯【相柳】といったな。九首蛇身にして、自らとぐろを巻き、九部を食い散らかす。全く⋯それは誠か?そなたが刻むような記録には、政権に優位に働くような嘘も時折散見される。⋯どうにも信用ならぬのだ。私が知る所によると、【共工の右に浮游、左に相柳】だ」
「⋯?」
「師父と友の窮地に、黙っていられなかったのだろう」
そう語った愚強の瞳に⋯かの、小さかった泥んこの少年達の姿が映る。
「⋯⋯⋯」
博益は、削刀を静かに置いた。
「燭陰の熱も、一体何を⋯何から守ろうとしていたのか。それは当の本人しか知らないのであろう」
「⋯一理あるな」
「ところで。北の噂では、有昧伯には毒を盛っても死なぬという逸話があるらしいぞ。親友の加護があるとかないとか。どうだ⋯試してみぬか」
「⋯⋯それより、ここの復興でしょう」
「お主は―⋯、私よりも現実的であるな」
福は⋯生地を捏ねる手を止めて⋯歌声轟くその空をふと見上げていた。
雄大な⋯光のカーテンが、北溟の地を美しく覆っていた。それは、オーロラの出現であった。
「なんだコレ⋯?すっごいな。海棠も何処かで見てるとよいが」
どんぐり眼に、ユラユラとその光が映し出される。
けれどその頃―⋯海棠も、浮游も、その輝きをを見ることはなかった。
なぜならば⋯散々一方的に喋った挙げ句、急に無口になった海棠の頭が突然、浮游の肩へともたれかかってきたのだから。
浮游はそれを、無人島のあの白夜の日と同じように、ただの睡眠かと思っていたのだろう。放置していたのだけれど⋯、暫くして、肩にじわじわと伝わってくる熱に、思えわず彼女の額に指の甲で触れたのだった。
その顔は、驚くほどに熱くなっていることに⋯気づいたのだ。
博益は、弔いの火が燃えゆる、その片隅でそれを眺めながら⋯やはり削刀を進めていた。
側にいる愚強と共に、弔いの酒を撒いて―⋯それから、献杯する。
愚強は興味深げに尋ねる。
「一体何をしたためているのだ?かようなまでに熱を持って」
けれど⋯博益はその問いには答えることはない。
「なぜ⋯あの時。有昧伯は禹后を裏切る行為だと知りながら、共工や相柳を逃がしていたのだろう」
博益は逆に愚強へと問う。
博益は、浮游の禹后に対する忠誠心を知っていた。だからこそ、禹后の治水にも携わり、共工ら逆賊の討伐へも借り出された筈だったのだ。
なのに⋯この地でもまた、禹后が忌み嫌う獯鬻たち、北の異端の部族を引き連れてきた。
謀反を企てているわけでもない。けれど、腑に落ちず納得もできない。
博益はその因果を探っていたのだ。
「共工の臣は⋯【相柳】といったな。九首蛇身にして、自らとぐろを巻き、九部を食い散らかす。全く⋯それは誠か?そなたが刻むような記録には、政権に優位に働くような嘘も時折散見される。⋯どうにも信用ならぬのだ。私が知る所によると、【共工の右に浮游、左に相柳】だ」
「⋯?」
「師父と友の窮地に、黙っていられなかったのだろう」
そう語った愚強の瞳に⋯かの、小さかった泥んこの少年達の姿が映る。
「⋯⋯⋯」
博益は、削刀を静かに置いた。
「燭陰の熱も、一体何を⋯何から守ろうとしていたのか。それは当の本人しか知らないのであろう」
「⋯一理あるな」
「ところで。北の噂では、有昧伯には毒を盛っても死なぬという逸話があるらしいぞ。親友の加護があるとかないとか。どうだ⋯試してみぬか」
「⋯⋯それより、ここの復興でしょう」
「お主は―⋯、私よりも現実的であるな」
福は⋯生地を捏ねる手を止めて⋯歌声轟くその空をふと見上げていた。
雄大な⋯光のカーテンが、北溟の地を美しく覆っていた。それは、オーロラの出現であった。
「なんだコレ⋯?すっごいな。海棠も何処かで見てるとよいが」
どんぐり眼に、ユラユラとその光が映し出される。
けれどその頃―⋯海棠も、浮游も、その輝きをを見ることはなかった。
なぜならば⋯散々一方的に喋った挙げ句、急に無口になった海棠の頭が突然、浮游の肩へともたれかかってきたのだから。
浮游はそれを、無人島のあの白夜の日と同じように、ただの睡眠かと思っていたのだろう。放置していたのだけれど⋯、暫くして、肩にじわじわと伝わってくる熱に、思えわず彼女の額に指の甲で触れたのだった。
その顔は、驚くほどに熱くなっていることに⋯気づいたのだ。