海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「不味い」

海棠が、そんな不遜な言葉を漏らしたその頃―⋯幻覚なのか夢なのか、混濁する彼女には理解しようにもできない世界が、目の前で繰り広げられていた。

「【マオウ(麻黄)】を―⋯」と、天から声が聞こえたかと思えば。

ふっと現れた―⋯まさに魔王のような装いをした男。

ああ、いつかもこんな審判を受けた気がする、と。彼女は現実を受け止めて⋯

「秦広王、どうかご慈悲を〜!」と命乞いをする。

「ならぬ」とそういい放たれて、思わず顔を上げたそこには⋯秦広王の衣装を着た【有昧伯】が立っているではないか。

青銅の器を掲げ、彼女を羽交い締めにすると―⋯無理矢理、ギトギトに煮えたぎった血の羹をこれでもか、と口へと投入するのだ。

「不味い」

(審判されるどころか、これでは拷問だ)

何度も何度も、息つく間も与えられずに繰り返されるその罰に。

彼の灰色の瞳をじっと見つめて⋯懇願する。

(有昧伯、戻ったらこれまでの恩をちゃんと返しますから⋯!)

するとどうだ?

どこからかひょっこりと、見たこともない爺さんが現れて。

パアっと灰色の粉を片手いっぱいに放って―⋯

「枯れ木に花を⋯咲かせましょ〜」

と、陽気にばら撒きはじめた。

海棠はハッとする。

なるほど、これは動物や凶獣、そして虫たちを焼いた遺灰か、と。

その遺灰を行使し、様々な形に変えてしまったのは紛れもなく自分であった。

(これが生前の業であり、罪であり過ちであると⋯判断されたのか)

陽気な爺さんは、彼女と有昧伯の間に割って入って。

それから、海棠へと向き直した。

「枯 木 逢 花、枯れ木に花を―⋯咲かせましょう!!」

はなさかじいさんの灰が、彼女の視野を奪って。

「海棠⋯」

その遥か遠くから、浮游の、静かなる慟哭の声が聞こえた―⋯気がした。


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