海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜

陸吾は言う。

「探していた者は、既にここにいる」と。そう、怜悧なる視線を玄女に向けて。

彼は気づいていた。

楽官として夔を招くには―⋯絶対的な協力者が必要である、と。

(探していたのは―⋯任務を遂行するための、共謀者。つまり、最初から⋯?)

これではまるで⋯立場の、逆転である。

そうして⋯夔は、自分の腕にも勝る琴の奏者―⋯、玄女に会うために、姿を現したのであった。

屈辱にも似た敗北感だった。けれどそれを表面に出すほど、愚かでもない。そして陸吾もまた、その知略をひけらかすような真似などしない。まるで彼女の功績であるかのように、拳を掌で包んで、深く礼をするのだった。

それは、陸吾が主にはそう報告する、と言うのにも等しい。

玄女はやや複雑な気分ではあったが、その意を汲んで。

彼を導いたその対価として、隠していた海棠の花を返すように求めた。

ここにしか咲かない花を、己の欲で道理に背くような真似をしてはいけない、と、窘める意味合いもあった。

これこそが、玄女の意趣返し。

陸吾は無表情のまま、少し間を置いた後に⋯懐に手をやって。徐に、それを差し出した。

そして花を手渡すその瞬間⋯彼女のその、不敵でたおやかな微笑みを目撃したのだった。


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