海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
忘川で全ての記憶を失い、歴劫として人間の生をスタートさせた玄女。

人間界で、まさに普通の人間として⋯人生を歩んでいく。

家族がいて、多くの友人がいて、幼馴染みの親友もいる。

小学校1年生からはサッカーに明け暮れて⋯まさに高校3年生まで続けていった。キャプテンとして率いた高校3年生の冬、全日本高校女子サッカー選手権大会に出場するなど、まさに文武両道の精神で逞しく生き抜いていた。

愛読書は漫画の『三国志』で、特に諸葛孔明を好んだ。好物は鶏の唐揚げ、そして何よりの癒やしは、愛犬の『ふく』であった。

そう⋯、実は福、崑崙では玄女、そして陸吾にも可愛がられていた存在であった。玄女の運命を気の毒に思った福もまた、人間界へ渡り⋯運よく彼女の愛犬として側にいたのだ。ただ、早くに他界し―⋯彼女より先に天妖界へ戻っていったのだが。
さて、大学生になった彼女が専攻するのは人文学。史学、心理学、宗教学、哲学、ドイツ語や英語、死生学など多岐にわたり学んでいく。

大学生2年生になったある春の日、入学して初めての寝坊をする。慌てて親友に電話して、席をとっててもらうようお願いするのだが⋯その電話の相手は、かねての天妖界での親友であり、人間界で転生を繰り返していた瑶姫であった。運命の輪廻と言えよう。同じ年に生まれ、人間界でもまた、幼馴染みの親友として出会ったのだ。

奇しくも同じ大学に在籍。互いに何でも話せる、大親友だ。

急ぐ理由から、この日はトレーニングシューズへと履き直して、気合いのヘッドバンド(サッカー用)をつけて飛び出して行ったが、ある理由から迂回していつもとは違うルートを選んでいた。それは運命の導きか?道路に飛び出しかけた少年を、鉄壁のディフェンスをして救ったことがきっかけだった。

いつもは通らない道。

そこは⋯側に川が流れている、堤防。

既に散った桜の花びらが、地面を覆い尽くした⋯桜並木の街道だった。

ところが、1本だけ、艶やかに、凛として⋯美しく咲き誇っている花木があった。

そう、それは⋯花海棠。思わず足を止めて、暫し見入って。それから、スマホで写真を撮ると⋯この画像を親友へと送った。

後でGoogleレンズでこの花を調べよう、と考えながら、花先を手にとって匂いを嗅ごうとした瞬間に―⋯心臓に裂けるような痛みが突き刺さった。

それは⋯歴劫の寿命に及ぶことのない、死の訪れ。

完全なるバグであった。

そして⋯、罰を受け終わるその前に、また忘川へと落ちてしまう。誰も予測しない事態だった。

その誤った死は、忘川の理に触れ、その源流である有昧后の管轄の地(冥界との緩衝地)に弾き出されたのだった。その手に―⋯海棠の折れた枝を持って。

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