海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
人間界に残された瑶姫に、天妖界の記憶はまるでない。人間界で何度も輪廻転生を繰り返し、若くして亡くなる運命であった。

それでも、再会した2人を繋ぎ続けたのは⋯海棠の花だった。

大学で玄女を待つ彼女のスマホには、送られてきたメッセージが表示されていた。たった1枚の写真。

その花の名前を送ったのだが⋯既読がつくことはなかった。

席をとってもらうお礼に、昼食を奢る、と。その日のその約束が果たされることなく⋯2度と会うこともなかった。

人間界に残された瑶姫は、二度と戻らない親友を想い、ただ涙を流すことしかできなかった。

その魂の深い哀しみは、時空を超え、天妖界へと雨を降らせる。

記憶を失った海棠が哀を感じるとき、浮游はいつも無言で【その香】を漂わせ、彼女の痛みを肩代わりする。

そして女几山の清流には、今もなお、海棠の無事を祈る瑶姫の面影が映り込んでいるかのように、静かに水が流れ続けているのだ。

そして時には一片の花びらとなって。

私はここにいるよ、と⋯

その花言葉を伝え続けていたのだ。

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