海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜


さて、数日間―⋯散策で色々な光景を目にして、役立ちそうな物を手にした私は―⋯これまた数日間に渡り、家(貯蔵庫)でも深夜作業に勤しんでいった。

番の者も―⋯気づかぬように。


手始めに、上掛けの麻布をそうっと裂いて、端から糸を引き抜く。それを3本に分け、太ももの上で転がして縒り合わせていくと―⋯指の腹が麻の摩擦で熱を持ち、ヒリヒリと痛んだ。
5月の乾燥した夜気が、裂いた麻の埃を喉に張り付かせていく。
この技術は、素直に福に聞いて学んだものだった。
強固な紐は、有昧生活に欠かせないことは―⋯現地人の福がよくわかっていたからこそ、作ってはくれないが、教えてはくれたのだ。


枕であった石は、投げつけた時に欠片が散っていた。私ににとっては、重要な筆記用具。日にちの経過を明確にするため、土壁を削って【正】の文字の1画を毎日刻もうと決めて。
枕の役目は―⋯もうひとつ。
「刃」となる石を打つ剥片石器として活用することだ。
川床で拾った黒曜石。
枕石を角度を見極めて、黒曜石へと一気に打ち下ろす。パキンという高い音と共に、カミソリよりも鋭い剥片(はくへん)が生まれた。そして―⋯その刃には微かながらの凸凹をつくっていくのであった。
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