海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
有昧(ここ)で生きるベースをつくるべく―⋯究極のサバイバルであった。

目につく知っている野草(植物)を―⋯次々と採取していく。生でも食べられるハコベは即戦力だ。

道中、清らかな川の側で―⋯石投げをして遊んだ。小学生以来である。腕が落ちていないことに、妙に安堵する。
知り得た技術は、身体で覚えたことは⋯忘れてたいないようだ。

その川床で、濁った灰色の石に混じって、一箇所だけ、鋭く光を撥ね返す場所を見つけた。泥を払うと、そこにはカラスの羽のように濡れた光沢を持つ、漆黒の石が顔を出す。

「海棠、そろそろ行こう」

そんな福の呼びかけに、生返事を繰り返しながら―⋯その黒曜石をいくつか懐に入れていく。

女子(おなご)は綺麗な石、好きだよな〜」
呆れたようにため息をつく福を他所に、黒く鋭いソレを集める自分に、何だか笑えてきたのだった。

それから―⋯いくつもの【気になるもの】を収集した。

傷ついた松の木の幹から滲み出ているドロドロとした琥珀色の樹脂を麻布の切れ端に擦りつける。そして、松ぼっくりが落ちていれば、それも福の籠の中に放り投げておいた。

落ちたまま越冬したのであろう、黒ずんだ木の枝を杖代わりにして歩いていった。整備されていない道を歩くのは、思いの外注意が必要で―⋯蛇やらに噛まれぬよう、杖を相棒にしてみたのだ。
もちろん、拾い上げるときに、掌にずしりとした重みが伝わり⋯指先で強く押しても、爪が食い込む気配すらないのは確認済みである。


萌黄色の正体―⋯黍の畑に辿り着くと。
邑の男衆が猪を狩る追い込み猟を目撃した。一筋縄ではいかず、流血する者もいる。

そして―⋯猪の食害も目の当たりにします。黍の畑が踏みつぶされている光景、根本から掘り返されている光景、泥浴びをして横になったのであろう。一帯がどろだらけになっている光景。

「世知辛いね⋯」

木陰に腰をかけて眺めながら―⋯思わず、そんな言葉が突いて出たのであった。
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