海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
いつもなら数十分で外へと姿を現す王が、いつまでも出て来ないことを不思議に思い⋯、福が洞窟内を覗き込むと。

女の側で、血を吐き、心の臓をグッと抑えつける彼の姿が⋯目に入った。

「有昧王っ!!」
福は慌てて駆けつけて、体を支えると⋯

「一体何があったのですか?」と、2人を交互に見比べては⋯涙ぐむ。

「⋯⋯⋯」
王は、その福の目に溜まっているものを眺めながら⋯不思議な感情に苛まれる。

「何でもない。この者は⋯もう大丈夫だ。お前が作る霊薬を飲ませて、そのまましばらく安静に」

「こんな女より、王が⋯!」

「福、よく聞け。どんな人間であっても、簡単に馴れ合ってはならない。それから、殺してもならぬ」

「コイツが王に何かをしたのですね?毒を盛ってやる」

「福。余計なことはするな」

「でも、」

「⋯手を貸してくれ」

福の肩を借りて、彼は力なく立ち上がると⋯
「頼んだぞ」とそう言って、ゆっくりと出口へと向かっていった。

「有昧王、どこへ?」

その後ろ姿は既に、一国を担う王のその威厳ある背中へと⋯戻っている。
伸びた背筋に⋯孤独を抱えて。


「⋯取り引きを忘れていた。⋯明日には戻る」
とだけ言い残して⋯その場を後にしたのだった。


王が去った後⋯、そのほのかな残り香に。福は鼻をすん、すん、と数回鳴らして、不思議そうに首を傾げていたー⋯。



手にした感情は⋯忘れていたものを、思い出させた。

罪悪感で胸が苦しくて、浅葱の渦が体中を網羅して⋯それを拒絶する気持ちが相反し、歩いていく道中で何度も血を吐きだした。その度に、甲で血を拭っては⋯、威厳ある王気を纏わせて。


揺るがなく、真っ直ぐに己の道を突き進んでいったのだった。
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