海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
黒曜石は、刃だけではなく別の活躍もしてくれた。
生きる上で―⋯最もいると言っても過言ではない【火】。黍の殼、筵から落ちた藁、松ぼっくりは燃やすために利用。
火種づくりにはコツが必要だったが―⋯黒曜石が活躍。擦り合わせてとうとう小さな種が燃料落ちた時。まるで大切なものを芽でるような気持ちでふー⋯と、息を吹きかけた。
ふわっと火が広がれば―⋯移動式の炉が利用できるようになれば、こっちのものだ。
早速炉の火を見つめながら、かつて読んだ歴史書の記述を必死に手繰り寄せていく。
「……確か、古代の武器作りでは、木を火で炙る工程があったはず」
記憶の底にある諸葛孔明の兵器開発のエピソード。そして、人文学部の講義で聞いた『焼き入れ』の原理。生木の水分を飛ばし、熱で繊維を締め上げれば、その強度は数倍に跳ね上がる。
迷わず、杖代わりに持ち帰った枝を火に近づけた。「この木、すごく頑丈だ」
私はこの木の正体を知る由もなかったが、直感で選ぶというより本能だったのだろう。
福に聞いたところ、「樫」の枝ではないかと言っていた。
現代で得た『知』が、四千年前の『生』を支える武器へと変わっていく様が―⋯小さな喜びとなっていった。
ある夜―⋯。
【ソレ】を作るタイミングが訪れた。
炉に近づけ温めていた松脂が、飴のように柔らかくなっている。それを『鉄の棒(焼きつけ後の樫)』の先端に塗り込み、鋭く尖った漆黒の刃を押し込むと―⋯次に、数日かけて縒り合わせた麻の紐を手に取った。
(緩むな、緩むな……)
指が鬱血し、爪の間に血が滲むほどの力で紐を巻き付けていく。5月の夜風が格子の隙間から入り込み、彼女の額の汗を冷やした。
最後に紐の端を松脂で固めると、手の中には、不格好だが凶悪な『牙』が完成していた。
明日、この貯蔵庫を出る時。私はもう、ただの「囚われの少女」ではない。
生きる上で―⋯最もいると言っても過言ではない【火】。黍の殼、筵から落ちた藁、松ぼっくりは燃やすために利用。
火種づくりにはコツが必要だったが―⋯黒曜石が活躍。擦り合わせてとうとう小さな種が燃料落ちた時。まるで大切なものを芽でるような気持ちでふー⋯と、息を吹きかけた。
ふわっと火が広がれば―⋯移動式の炉が利用できるようになれば、こっちのものだ。
早速炉の火を見つめながら、かつて読んだ歴史書の記述を必死に手繰り寄せていく。
「……確か、古代の武器作りでは、木を火で炙る工程があったはず」
記憶の底にある諸葛孔明の兵器開発のエピソード。そして、人文学部の講義で聞いた『焼き入れ』の原理。生木の水分を飛ばし、熱で繊維を締め上げれば、その強度は数倍に跳ね上がる。
迷わず、杖代わりに持ち帰った枝を火に近づけた。「この木、すごく頑丈だ」
私はこの木の正体を知る由もなかったが、直感で選ぶというより本能だったのだろう。
福に聞いたところ、「樫」の枝ではないかと言っていた。
現代で得た『知』が、四千年前の『生』を支える武器へと変わっていく様が―⋯小さな喜びとなっていった。
ある夜―⋯。
【ソレ】を作るタイミングが訪れた。
炉に近づけ温めていた松脂が、飴のように柔らかくなっている。それを『鉄の棒(焼きつけ後の樫)』の先端に塗り込み、鋭く尖った漆黒の刃を押し込むと―⋯次に、数日かけて縒り合わせた麻の紐を手に取った。
(緩むな、緩むな……)
指が鬱血し、爪の間に血が滲むほどの力で紐を巻き付けていく。5月の夜風が格子の隙間から入り込み、彼女の額の汗を冷やした。
最後に紐の端を松脂で固めると、手の中には、不格好だが凶悪な『牙』が完成していた。
明日、この貯蔵庫を出る時。私はもう、ただの「囚われの少女」ではない。