海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
福は気づけばいつも隣りにいる。命じられたからだ、と意地悪な毒は吐くけれど⋯決してスマートではないが、なんだかんだ⋯私に多くの情報を与えてくれる。
懐いているようにも見えて、時折噛み付く。そんな関係性だからか⋯不思議と言い合いができる、唯一の存在だった。

「福。気になってたんだけど⋯」

「ん?なんだ?」

「あっち。さっき居た店の、もっと先の⋯突き当たり」
私は、くるりと後方へと向き直して。遠く、遠くを⋯指さす。

「突き当たりというか⋯、霧が濃くて全く先が見えない所があったでしょう?あの辺り、風も熱さを感じたし独特な匂いを運んできてた。それに、霧というより⋯煙に近い。あの向こう側には、何があるの?」

福は私が指す方向を眺めながら、遠い目をして⋯、ポツリと呟く。

「お前⋯時々鋭いこと言うから、嫌だ」

「⋯⋯⋯」

どうやら私の【知恵袋】に、嫌われてしまったようだ。けれど⋯これでめげるタチではない。何せこの可愛い知恵袋は、その主とは正反対。的を突けば⋯黙っていられない性分なのだ。

「一見、見えないように隠されてるよね。それって⋯国家機密だったり?」

「⋯⋯別に隠してるとかそういうのではない。見えなくなっているだけだ」

ん?今、屁理屈言った?

「そうだよね。隠してるなら、堂々と使ったり持ち歩いたりは、流石にしない」

「そりゃあ、隠しても仕方ないし」

「実用的だもん、そりゃあそうか。凄い技術だし。⋯で、貴方のその腰にさげた物も、そこで?」

私は、福が衣に下げて常に携帯しているそれを⋯手にとって、彼の顔を覗き見た。

彼が柿を剥く時に使っていた⋯、そして、私が脱出用に拝借した、ナイフだ。

「⋯そうだけど?」

「ふーん⋯。所々で青銅で作られた物を見つけたけど、有昧(ゆうまい)は青銅器の製造技術に長けてるんだね」

「⋯⋯⋯」

「それに、この辺境の地であっても⋯栄えてるように見える。ちゃんと食材も生活用品も揃って、物流も滞っていない」
おそらく、余所の氏族や方国と手を結び⋯国交を深めている。独自の物流ルートがあるのだろう。

「⋯⋯⋯」

一介の都として機能してもおかしくないような⋯。
いや、そうであったら⋯都を置く中原(ちゅうげん)から、その脅威で睨まれてしまう?

どうやら⋯絶妙なバランスをもって、この邑を存続させているようだ。

< 34 / 83 >

この作品をシェア

pagetop