海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「ねえ、福。あそこに行きたい」

「お前⋯、駄目に決まってるだろ。あのなあ、いくら王が許したからと言ってもな、自由にも程があるだろう?」

いよいよ彼は、はあ〜⋯、っと大きくため息をついて、私の手から⋯籠を奪う。
「駄目か。やっぱり国家機密なのでは?」

「しつこいぞ」
「見たって真似すらできない、ただの人間の人質なのに?」

「⋯⋯。余計なこと考えないように、頭より体を動かせ。⋯ホラ、これをやるから、あそこの店から迷穀(めいこく)でも買ってこい」

すっかり呆れた様子の福は、私の手に貝殻を紐で束ねたソレを⋯握らせた。

「⋯【めいこく】とは?」
「店主に聞いて、ソレを渡せば買える」
「ソレって⋯これ?貝殻?」
よくよく見ると、欠けているものも、あるけれど⋯。

貝貨(ばいか)だ。貴重だから大事に扱え」

「ばいか⋯。ああ、(ばい)()⋯か!」
つまりは、お金ってことか。

「⋯福。あのさ⋯。こうやってすぐ壊れる貝殻を使うのは、効率悪くない?」

「⋯⋯⋯」

「貴重なのなら、なおさら。どんどん使って壊して⋯そんなことをしていたら、いつか欲しくても手にはいらなくなるのでは?」

「⋯⋯⋯」

「私が思うに、」

「⋯今度はなんだ」

「有昧が青銅技術に長けるならば、頑丈で壊れにくいソレを造ってしまえばいいかと」

「⋯青銅で、貝を?」

「そう。銅で、貝を。名付けて⋯(カイ)(ドウ)!⋯なーんてね」

福がついにはプッと吹き出し⋯笑う。
笑うと⋯タレ目だ!

うっかり胸がキュン、としてしまう。

けれど、ふざけて言っている訳ではない。美しく、貴重な物ならば⋯無駄にせず済むのなら、この考えは決して損にはならないはずなのだ。

「そうではなくて、青銅技術で万国共通の貨幣を造ったらいいのでは?」

「⋯⋯。()に従順であるならば、それはあり得ぬな。万国共通だと?それが意するのは、権力を誇示するに等しい。⋯争いの火種になりかねない」

「⋯⋯⋯」
なるほど、一理ある。

「いい考えではあるけどな。我々にできても、しないのが道理だ」

「⋯⋯そう。残念だけれど、わかった」

「わかれば、いい。ホラ、早く行ってこい。お前といると、なんか⋯疲労が増す」

「失礼な」

「⋯偉そうに」

「「⋯⋯⋯」」
じいい〜⋯、と睨み合って。けれど、福はすぐにそれをやめて⋯

「じゃあな」
と、スタスタと歩いて行ってしまう。

「え。福?どこに行くの?」

「酒蔵に寄ってから、先に帰る」

「監視役は?」

「帰って来てからでいい。どうせもう、逃げないだろう?」

「でも、まだ道を覚えてない」

「⋯迷わないから大丈夫だ。⋯じゃあな〜!!」



こうして、相棒は⋯初めて私の元から離れていったのだった。



因みに―寄った店の店主によれば。めいこく=迷穀、だそうで。

身につけると⋯迷子にならないらしい。

上手くあしらった、ということだ。

狡賢い、知恵袋め。
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