海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜

第7話 天妖界に生きる者たち

福と市へ行った、その日の夜⋯。

小さく狭い納屋に相も変わらず閉じ込められた私は⋯もはやくたくたで。すぐさま寝床にゴロリと横になった。
兵糧確保に、まさに⋯輸送部隊。無論、工房(納屋)での実験にも勤しんで⋯ずっと立ち通しであった。まるで部活後のそれみたいに、脹ら脛に疲労が溜まっている。

もう何度目かになる、夜を⋯明かそうとしていた。

親切心か何なのか、一応は、と用意された寝床で目を閉じるものの⋯。夜には例の見えない腕輪で、両腕を拘束される。結ばれた状態では寝返りさえままならない。
拷問を受けるよりはずっといいのだけれど。

けれど⋯、いくら目を閉じても、また目が覚めてしまう。



⋯そう。自分の記憶の中の最期の時。
漠然とした⋯あやふやな瞬間が、恐怖となって夢を真っ暗な世界へと貶めるのだった。

混沌とした夢。
同時に金縛りに遭い⋯息ができなくなって。溺れるような苦しさで目が覚める。
すると、拘束された腕をみて⋯我に返る。

冷や汗で全身をぐっしょりと濡らしながら⋯肩を落として。自分は何者なのか、と問う。

あの、有昧王の低い声に重なるかのようにして、問い続けるのだ。

隠し続けて来た⋯疑問。
お前は一体何者なのか、と。


何度目か繰り返して、すっかり辟易した後には⋯寝たい、という願望すら湧かなくなった。

寝床から出て、壁際へと向かうと、小さな小窓を⋯押し開ける。


「⋯⋯月だ⋯」

私の住んでいた世界と同じ。
夜の空には⋯ぼんやりと月が浮かんでいる。

ここにも、太陽が巡ることは⋯知っている。

腹が減ればご飯を食べるし、自衛するためにひたすら鍛えることもするし、夜になれば⋯寝る。

生活の概念は人間界と同じであるというのに。なのに⋯、違う。

【この世】というものは⋯一体幾つ存在するのだろう。

するとどうだ。
急激に、《《また》》知りたい衝動が襲って来て。胸のなかで何かが掻き立てられるようだった。

私は自分の腕を見て、ふと⋯考える。

「これが⋯邪気を除けると、王が言ってたよね」

もし、私が起こす行動に問題があれば⋯あの男は黙ってなどいないだろう。きっと、この腕輪を通じて罰を下すことも容易いはず。

でも、逃亡の恐れなし、と、また敢えて泳がせるのならば?

「⋯一か八か、試す価値は⋯ある」

自分の居場所は、今どうせここにしかないのだから⋯戻ってこればいい。

そう思ったら善は急げ、であった。

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