海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
まるでパフォーマンスのように進んでいく調理過程のその終盤。
ちょっと焦げた部分を畢方へとぽい、ぽい、と分け与えて、
そして―⋯仕上げに塩を振るいかける。
肉の分け前の大部分をあげることを条件に、この人ならきっと持っているだろう、と、驍に交渉して得ていたのだ。そう―⋯、塩はおそらく、高価である。
完成したのは―⋯
春野草とイノシシの塩炒め。
気づけば、畢方は何事もなかったかのように空へと羽ばたいて―⋯悠々と大空を旋回したかと思うと、その姿を消していた。
「さあ、猪肉に最高に合う酒だ!皆呑んでいってくれ」
気前よく叫んだ驍のひと言に、宴会が―⋯始まる。
彼は力強く太鼓を叩いていたかと思えば⋯高齢の母に連れ添い、手を携えたり食事を細かく切って口へと運んだりしている。
私と福は―⋯有昧の民の温かさに触れながら、呑兵衛たちの語らいに⋯耳を傾けるのだった。
「よお、女君。また絶対会おう」
宴会の途中で、わたしと福は驍に挨拶し、握手を交わすと―⋯その場を先に離れた。
いつもよりも長く―⋯外へ滞在していたからだ。
帰宅の道中、私が目の当たりにしたのは、有昧の民の耳の早さであった。数時間前とは一変した光景だ。
何故かすれ違う人から名前を呼ばれ、頭を下げて挨拶して来る人もいる。
噂がどうやら広がったらしく―⋯
◯猪を難なく殺した女である。
◯(福から聞いたら)畢方という鳥は、現れれば火を起こし災いをもたらす悪獣であった。その畢方を手玉にとった女である。
◯至福をもたらす料理を作る女である。
むしろ、名を広めた、というより―⋯まるで怪人であるような、妙な伝わり方だったようだ。
さて。そんなこんなで―⋯帰宅して一番驚いたことは。
福の変貌だ。
何やら帰ってから数日間、私財を投じて大掛かりな工事をはじめたのだ。
雑草の生い茂っていた庭の中央には、赤土で固められた見事な二口の竈(かまど)が築かれている。福は、豹の紋様を揺らしながら機敏に立ち働き、青銅の鑑に清冽な水を満たしていた。
「準備は整った。礼は要らない」なんて言いながら―⋯未知の料理作る私の傍らをうろちょろするのであった。
竈の横には、有昧が秘匿する技術の結晶——薄く、強靭な青銅の盤と、重厚な鬲が誇らしげに並んでいる。
大きな石のカウンターの上には、2人で得た食材が並ぶようになった。
おまけに。
「誰」ための空間か?
いつの間にか調理場を一望できる少し高い位置に、高御座風の椅子が鎮座している。虎であろうか?そこに座す者のためであろう。獣の毛皮が敷いてあった。
誰もいないというのに、誰かの冷た〜い視線が静かに降り注ぐ気配を感じて。ゴクリ、と息をのんだ。
今のところ―⋯何のお咎めもなし。
「⋯⋯そうか」
私は己の腕をじっと見つめる。
「この、腕輪があったから―⋯あの鳥は何もできなかっただけだったか」
くすり、と笑いが―⋯こみ上げてきたのだった。
ちょっと焦げた部分を畢方へとぽい、ぽい、と分け与えて、
そして―⋯仕上げに塩を振るいかける。
肉の分け前の大部分をあげることを条件に、この人ならきっと持っているだろう、と、驍に交渉して得ていたのだ。そう―⋯、塩はおそらく、高価である。
完成したのは―⋯
春野草とイノシシの塩炒め。
気づけば、畢方は何事もなかったかのように空へと羽ばたいて―⋯悠々と大空を旋回したかと思うと、その姿を消していた。
「さあ、猪肉に最高に合う酒だ!皆呑んでいってくれ」
気前よく叫んだ驍のひと言に、宴会が―⋯始まる。
彼は力強く太鼓を叩いていたかと思えば⋯高齢の母に連れ添い、手を携えたり食事を細かく切って口へと運んだりしている。
私と福は―⋯有昧の民の温かさに触れながら、呑兵衛たちの語らいに⋯耳を傾けるのだった。
「よお、女君。また絶対会おう」
宴会の途中で、わたしと福は驍に挨拶し、握手を交わすと―⋯その場を先に離れた。
いつもよりも長く―⋯外へ滞在していたからだ。
帰宅の道中、私が目の当たりにしたのは、有昧の民の耳の早さであった。数時間前とは一変した光景だ。
何故かすれ違う人から名前を呼ばれ、頭を下げて挨拶して来る人もいる。
噂がどうやら広がったらしく―⋯
◯猪を難なく殺した女である。
◯(福から聞いたら)畢方という鳥は、現れれば火を起こし災いをもたらす悪獣であった。その畢方を手玉にとった女である。
◯至福をもたらす料理を作る女である。
むしろ、名を広めた、というより―⋯まるで怪人であるような、妙な伝わり方だったようだ。
さて。そんなこんなで―⋯帰宅して一番驚いたことは。
福の変貌だ。
何やら帰ってから数日間、私財を投じて大掛かりな工事をはじめたのだ。
雑草の生い茂っていた庭の中央には、赤土で固められた見事な二口の竈(かまど)が築かれている。福は、豹の紋様を揺らしながら機敏に立ち働き、青銅の鑑に清冽な水を満たしていた。
「準備は整った。礼は要らない」なんて言いながら―⋯未知の料理作る私の傍らをうろちょろするのであった。
竈の横には、有昧が秘匿する技術の結晶——薄く、強靭な青銅の盤と、重厚な鬲が誇らしげに並んでいる。
大きな石のカウンターの上には、2人で得た食材が並ぶようになった。
おまけに。
「誰」ための空間か?
いつの間にか調理場を一望できる少し高い位置に、高御座風の椅子が鎮座している。虎であろうか?そこに座す者のためであろう。獣の毛皮が敷いてあった。
誰もいないというのに、誰かの冷た〜い視線が静かに降り注ぐ気配を感じて。ゴクリ、と息をのんだ。
今のところ―⋯何のお咎めもなし。
「⋯⋯そうか」
私は己の腕をじっと見つめる。
「この、腕輪があったから―⋯あの鳥は何もできなかっただけだったか」
くすり、と笑いが―⋯こみ上げてきたのだった。