海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
止むことのない音色に⋯そっと耳を傾けて。重なり合う神秘的な旋律を堪能する。

空をみあげて、その主を探すと⋯青みがかった5色の色の羽を優美に広げてゆっくりと舞う⋯尾の長い、見たこともない鳥が⋯そこにいた。歌声の、主だ。

そして、その歌に合わせる笛は⋯、と、辺りをよりゆっくりと、仰ぎ見る。

「⋯⋯人⋯?」

大きな木の、その枝に。
高く、遠く離れたその場所に⋯白い服を着た男の人が、座って笛を奏でているのが⋯かろうじて見えた。

世のものとは思えぬ、優雅な鳥は⋯旋回しながら、時折笛の男へと近づいて。催促するように浮遊する。

その舞と、その調(しらべ)は⋯きっと多くの者を魅了するのであろう。

ずし、ずし、と私の背後から⋯重低音が響いてきて。彼らの演奏に拍をとるかのようにして、次第にそれが近づいてきたのだった。

その恐怖感で腰が抜けた私は、その場で尻もちをついた。

妖族の毛の輪。それに縋るかのようにして、左腕を高く突き上げながら⋯恐る恐る、後ろへと振り返った。
そこにいたのは⋯、やはり、この世の者とは思えない生き物であった。

美しくて驚いているのではない。
その、真逆だ。

大きく、黄色の大袋のような丸まった巨体。
6本の太い象のような足。
4つの翼⋯。

その顔は。
その、顔は⋯ない。

首から上、というものが存在しない生体。
目も、口も、鼻も、耳だってない。

なのに⋯、だ。
この美しい旋律を穢すことなく、音に乗せて⋯踊っているようにさえ見える。

(⋯⋯どうやって⋯感じているの?)

その生き物への恐怖よりも、不思議さが勝って。
じっと、じーっと⋯眺めた。

殺気など微塵も感じない。
こういう稀有な存在は、妖界になら⋯いてもおかしくはない。と、根拠なくそんな思いに至った。

悪い妖怪では⋯、ない。
きっと違う。

なのに⋯⋯、だ。
笛の音がピタリと止まり、それに驚いたのか⋯鳥が悲痛な声で、ひと鳴きする。

目の前の怪物もまた、ほぼ同時に巨像のように⋯ピタっと微動だにしなくなる。

(⋯⋯音も聴こえないはずなのに⋯⋯)

嫌な予感がして、私はゆっくりと立ち上がる。

仰いだ空に⋯ゆらりと、白い衣の男が宙に浮かんで。
じっと、こっちを見ていた。

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