海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
思わず下を向いたその時、ひゅうっと風が纏わりついて⋯バランスを崩しかける。

「危ない」とすぐさま男がひき戻して。

私はホッと胸を撫で下ろす。

この者は、きっと天族の者なのであろう。この気品。ちっとも驚きもせずに、こんなにも落ち着いた対応。

すると⋯、だ。
男はどこからともなく、不意にとっくりと盃とを取り出して。
私に⋯1つそれを持たせると。
なみなみと、酒を注いだ。

「⋯⋯あの。人間は⋯19歳では飲めないのですが」

「19⋯。ここは天妖界ですから、安心して呑んでください」

「酔ったらここから落ちてしまいます」

「⋯⋯。今夜は満月です。月見酒に付き合ってくれるのなら、落としもしないし酔わせもしません」

「⋯⋯⋯」

人間界でも経験していないことを、ここで⋯?

けれど⋯この者の落ち着き払った雰囲気と、私の好奇心と、そして何より⋯

ここに来て、初めて自分を尊重してくれる人との出会いへの嬉しさとで、私は⋯盃をカチっと音を立て合わせると。
それをぐいっと一気に飲み干した。

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