海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
不意に⋯⋯風が渦を巻いて、2人を包む。
博益がハッと気づいた時には⋯海棠の体がぐらり、と前方に倒れて⋯急いで手を伸ばす。
何度も死守したというのに、この時ばかりは⋯油断してしまったのだ。
真っ逆さまに落ちていく海棠を守ろうと、掌を翳し霊力を放とうとした時であった。
海棠が落ちていく先に、遥か⋯下方に。
腕を広げ、それを待つ者が⋯目に入った。
海棠の身体は宙に浮き⋯ゆっくりゆっくりと下降していく。
博益はその動向を⋯木の上から、ただ眺めていた。
海棠の身体を引き寄せるようにして受け止めたのは⋯黒紅梅の髪色をした男であった。
その男もまた⋯驚いたかのようにして、目を見開いては⋯博益の方を見つめていた。
見つめ合って数秒。
最初に根負けしたのは⋯博益の方だ。
ふうー⋯、と長い息を吐いて。それから、「待たれよ」と、釘を刺してから。ふわりと⋯地面へと降り立ったのだった。
博益は、海棠を抱きかかえる男の顔をじっと見て⋯
「随分と久しいな。例えかような僻地にいても、お前の功績は嫌でも耳に入って来るが⋯」
と、男の肩へと手を置いた。
「⋯⋯⋯」
男はふい、っと目を逸らして。
海棠をゆっくりと地面へと下ろしてから⋯博益へと、片膝ついて深く敬拝する。
「久方振りだ」
「堅苦しい挨拶は要らぬ。無事に過ごしているようで⋯安堵したぞ」
柔和な笑みを浮かべる博益とは対照的に、男の表情は1ミリも動きはしない。
「⋯⋯⋯黒紅梅のままであるとは⋯」
「⋯⋯⋯」
「今のお前は、何て呼ぶべきなのだ?」
「お好きなように」
「陛下が本当にお許しになったと、そう思っているのか?まだ疑っておいでだと⋯気づいているだろう?お前はなぜ頑なに⋯」
「構わぬ。罰はいつでも、受けよう」
「心配して言ってるのだ」
「情けをかけるつもりか?」
男は、博益へとじり、じりと近づいて。据わった目つきで⋯じっくりと⋯睨みつける。
博益は男のぐいっと顔を押しのけて。
負けじと⋯睨み返した。
「まだ⋯己の顔を捨ててないのか、浮游よ」
博益が呼ぶその名前、浮游。男はピクリとその名に反応し、うっすらと⋯笑いを浮かべた。
「命を奪っておいて、なぜそう思うのだ?」
「⋯⋯⋯。お前だろう?あの者を弔ったのは」
「何の話だ」
「まあ、よい。過ぎたことだ。いずれにせよ、私が出会ったのは、お前に違いはないのだから」
「⋯⋯⋯」
「もう陛下を失望させるでない」
「忠告に感謝する」
博益がハッと気づいた時には⋯海棠の体がぐらり、と前方に倒れて⋯急いで手を伸ばす。
何度も死守したというのに、この時ばかりは⋯油断してしまったのだ。
真っ逆さまに落ちていく海棠を守ろうと、掌を翳し霊力を放とうとした時であった。
海棠が落ちていく先に、遥か⋯下方に。
腕を広げ、それを待つ者が⋯目に入った。
海棠の身体は宙に浮き⋯ゆっくりゆっくりと下降していく。
博益はその動向を⋯木の上から、ただ眺めていた。
海棠の身体を引き寄せるようにして受け止めたのは⋯黒紅梅の髪色をした男であった。
その男もまた⋯驚いたかのようにして、目を見開いては⋯博益の方を見つめていた。
見つめ合って数秒。
最初に根負けしたのは⋯博益の方だ。
ふうー⋯、と長い息を吐いて。それから、「待たれよ」と、釘を刺してから。ふわりと⋯地面へと降り立ったのだった。
博益は、海棠を抱きかかえる男の顔をじっと見て⋯
「随分と久しいな。例えかような僻地にいても、お前の功績は嫌でも耳に入って来るが⋯」
と、男の肩へと手を置いた。
「⋯⋯⋯」
男はふい、っと目を逸らして。
海棠をゆっくりと地面へと下ろしてから⋯博益へと、片膝ついて深く敬拝する。
「久方振りだ」
「堅苦しい挨拶は要らぬ。無事に過ごしているようで⋯安堵したぞ」
柔和な笑みを浮かべる博益とは対照的に、男の表情は1ミリも動きはしない。
「⋯⋯⋯黒紅梅のままであるとは⋯」
「⋯⋯⋯」
「今のお前は、何て呼ぶべきなのだ?」
「お好きなように」
「陛下が本当にお許しになったと、そう思っているのか?まだ疑っておいでだと⋯気づいているだろう?お前はなぜ頑なに⋯」
「構わぬ。罰はいつでも、受けよう」
「心配して言ってるのだ」
「情けをかけるつもりか?」
男は、博益へとじり、じりと近づいて。据わった目つきで⋯じっくりと⋯睨みつける。
博益は男のぐいっと顔を押しのけて。
負けじと⋯睨み返した。
「まだ⋯己の顔を捨ててないのか、浮游よ」
博益が呼ぶその名前、浮游。男はピクリとその名に反応し、うっすらと⋯笑いを浮かべた。
「命を奪っておいて、なぜそう思うのだ?」
「⋯⋯⋯。お前だろう?あの者を弔ったのは」
「何の話だ」
「まあ、よい。過ぎたことだ。いずれにせよ、私が出会ったのは、お前に違いはないのだから」
「⋯⋯⋯」
「もう陛下を失望させるでない」
「忠告に感謝する」