海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
楽しい時間こそ⋯あっという間に過ぎていく。博益はそれがわかっているから⋯この儚い時間に、真摯に向き合っていく。

コクリ、コクリと船を漕ぎ⋯何度も眠りにおちては、舞い戻ってくる。そんな海棠を見ているだけで、面白い。まだ終わりにしたくないと暗に伝えてくる素直さが⋯嬉しかった。

自分のことを知らない、ただの博益として紡ぐ時間が⋯楽だった。そうであるから、たった1つだけ、些細な嘘をついた。

寝ぼけ眼で、もう空になった盃を口に運ぶ海棠に⋯つい、ポツリと問うた。


「次はいつ会えるだろう?」

九部を共に巡ろうと約束をした。次に目を覚ませば、忘れてしまっているかもしれないのに⋯うっかり口走ってしまった。

「⋯会いたい時に⋯会えばいい」
と、むにゃむにゃと答えたものだから⋯博益はホッと胸を撫で下ろす。

綺麗で幻想的な⋯満月のひととき。
2人の縁が、長く、長く続くであろうことなんて⋯互いに思ってなどいなくて。

それでも、妙に大事にしたくて。

気づけば、ほろ酔いの博益も⋯心地よくなって、海棠の頭と、博益との頭が支え合うようにして⋯互いに目を閉じていた。
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