海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
物足りないけれど、仕方ない。
渋々とボールを返し、男衆の訓練の続きを見学しようと⋯木陰に座ったその時だった。


「そなたは有昧王の友人であろう?⋯名は何と申すのだ?」

軍人の1人が、私にそう声をかけてきた。

「⋯友人⋯?⋯⋯」

福にチラリと目をやって、何て答えたらいいのかを⋯訴えかける。

「海棠は、王の大事な客人だ」
福が悟って、代わりに答えてくれる。

「そうであったか。⋯失礼した。時に⋯そなたの動きを見ていたが、この道の達人であろう?ぜひ指導を賜りたい」

「えっ」

「有昧王の戦闘教義は随一であり、誰にも真似はできぬ。そなたを招いたのは、何か思惑があるのではないかと察していたが⋯。狡《コウ》殿、そうであろう」

(⋯⋯《《コウ》》?)
思わぬ⋯展開。
教えるも何も、いちプレーヤーに、そんな能力などある訳もなく⋯。
疑いもせず、懇願してくる男を前に、次の言葉が出ずに⋯つい、黙り込んでしまう。

「海棠。⋯ホラ、教えてやれよ」
福の⋯バットなアシストが入って。私は思わず首をブンブンと横に振った。

「勿体ぶるな」
引き続き、拒否するものの⋯⋯、福の顔つきが、真剣である。

「いいから。有昧伯《ゆうまいはく》にもそう仰せつかっていただろう?」

(有昧⋯伯?)
少し強張った福の表情が⋯何か言いたげで。私は諦めて、とうとう首を縦に振ったのであった。

どうやら、これは⋯事情がありそうだ。


< 70 / 83 >

この作品をシェア

pagetop