海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
自分の口なのに、まるで自分じゃないみたいな、確固たる自信。何が私を、そうさせているのか?

「【防御は最大の攻撃なり】【攻撃は最大の防御なり】(by孫子)。これは⋯決して間違いでもなく、両者に一理あります。なのに⋯まるで矛と盾のような二律背反な考えだと思いませんか?そうなると、突破口は⋯その、両方です。【有備無患(ゆうびむかん)】、備えるのです。一計を案じるよりも、一計に加えて、相手の動きを見ながら流動的に策を変えていく。より緻密に、計略を巡らせる。兵糧は足りているのか?兵の数は?地形は?一計に倒れた時は?こういった集団の『スポーツ』は、信頼関係の構築と共に、様々な角度から物事を考え共有していく礎ともなるでしょう。それに⋯、楽しいことは、続くものです。辛い、苦しい訓練の一コマの休息として⋯体力の向上も兼ねて行なっていければ、利となることもあるのではないでしょうか。それから⋯ですが、当たり前ですが、烏合の衆では決して成り立ちません。その全体をまとめ上げる監督⋯いえ、軍師が才知に長ける者でなければ、個人がいくら優れていようがどうにもならないものです。ですから⋯軍師を信じ、ついていって欲しいとそう願います」

どうして最後に、あの者への忠誠を尽くすよう⋯鼓舞したのか。
自分でも⋯まるでわからなかった。

息が上がり、泥や血に塗れた体は⋯限界でもあった。もうすでに、ボロボロの身。

体力の差は歴然で、対峙すればするほど⋯メッキが剥がれるのではないか、と危惧していた。

一介の、力もない人間が、偉そうに指導などとは生意気にも程がある。そう、わかっていたけれど⋯、福の不安そうな顔つきとへの懸念と、王の顔に泥を塗ったら⋯と、大きなプレッシャーとが、私を突き動かしていたのかもしれない。

なぜ、人間の私は今ここにいて、
なぜ、その存在を⋯隠さなければならないのだろう。

それとも、この世界こそが本物であり⋯そもそもの私という存在が⋯虚偽であったら?


自分の存在の意義を、懐疑的に⋯思う。

ここでは本来罪人のような立場であるのに、客人とされたら。
別の人間を演じる他、ないのだ。何かを憑依させたかのように。


< 72 / 83 >

この作品をシェア

pagetop