海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
賢く、そして⋯霊力の強い2人は、まともにやり合えば大人達さえ敵わぬであろう、と共に【怪童】と噂された。
それと同時に、2人は洶工の治水事業の現場をうろちょろしては⋯邪魔ばかりするので。部族の民には右に浮游、左に相柳と洶工はよく笑われたものだった。無論、全く意に返さなかったが。
洶工は土木工事で堤防を作って水の氾濫を堰き止める“壅防”という方法を推し進めていったが⋯課題を多く残していた。
⋯辟易していった洶工は⋯余裕がなくなり、笑顔も次第に減っていく。
先帝は、そのタイミングを見計らって⋯。
浮游を崑崙山へと呼び戻した。このままでは⋯浮游にとって、良い方向に行かない、と判断したのだ。
素直に、聡明に育った浮游に⋯先帝は満足して、元来の役割をあてがった。
多くの者と心を通わせ邪の道へも引きずられず⋯、一旦物事を俯瞰して考える。
都の守り神としての資質が十分に育った、として⋯命じたのだ。
同時に、名を改めた。
いや⋯、正確には、こちらが元々の名前であり、役職を象徴する名前であった。
浮游は⋯以後、【陸吾】と名乗ることになる。
陸吾として生きた浮游は、その役割を⋯淡々とこなしてきた。守護神として時節を見守り、時に調整し、誠実に、慎重に⋯。
浮游にとって誇らしいものでは決してなく⋯縦横無尽に自由に駆け回った記憶が、常に付きまとった。
だから⋯であろうか。
あの、泥臭くともかけがえのない日々を、と、ある者が悪意をもって噂し⋯洶工や相柳を見下したその者に、深く心を惑わせられたのは。