海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「久しいな、相柳」
浮游は⋯返事もできない友に、そう語りかける。

会いに来たくても⋯来れなかった。

天帝を裏切る行為は許されることはなく⋯それでも常に献身的であった陸吾を殺すこともできず。

臣下に命じ、9個のうち、1つの命―⋯、そう、浮游である命がどれかも知らずに、1つ、奪ったのだった。

天帝は苦慮の上、北西の昧谷に1つの方国を建国し⋯その、有昧へと陸吾を幽閉した。同時に、天上界に大きな貢献があり、同じように罪を犯した者にも⋯温情でそのような措置をとった。

凶神で邪悪とした洶工や相柳を哀れみ、心を惑わされることがないように⋯哀の感情を抜きとって、恩すら忘れてしまうように⋯それを罰として施したのだった。神獣という身分も、剥奪して。

だから⋯浮游は、その内なる思いと、情とを失くして⋯来れなかったのだ。



職務においてはやはり献身的で優秀な浮游。
天上界と下界の天妖界への中立を誓い⋯独立国家の国公としての手腕は、かつての陸吾を彷彿とさせるものだった。
人となりこそ、すっかり変わってしまったように見えるが⋯根底の部分でそうではないだろう、と、天帝も理解していた。
そうであるからこそ。以前のように⋯一国の守護と、天妖界全土の安全を守る役目を、新たに命じたのだった。そうして⋯有昧伯は誕生した。

時節を守るよりも、もっと難解で⋯危険な役目は、やはり、罰と同等である。

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