海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
もう、見ることもできない崑崙山を⋯見上げて。浮游はひとつ息をついた。
1度侵した過ちは、その後のトリガーに過ぎなかった。繰り返した過ちは、深く鋭く胸に刻まれて。
天帝への後ろめたさと⋯恨めしさを抱えたまま、浮游の人生は⋯今に至る。



浮游は、崑崙山から少し北に位置する、ある場所へも⋯訪れて。弔いの酒を撒いた。

そこは⋯相柳が戦死した場所であった。
現天帝に討伐された相柳の遺体から⋯猛毒が溢れ出して。人も住めず、作物も育たぬ不毛の地となったここは⋯以前は真っ黒な池のある、禁足地となっていた。
誰も近づけず、誰も訪れぬ中⋯かつて浮游はここに来て、汚染されたその沼へ⋯文字を刻んだ石を投げてやった。
それは⋯誰にも知られず、誰からも悲しまれず、忠義に従い散った友の⋯墓石だった。

誰にも知られぬように。
小さな石ころを沼の中に積み上げて、その魂が⋯静かに眠れるように。

今は⋯埋め立てられ高台が立ち、神々を祀る神聖な場所となっていた。

自分を守ってくれた友の墓は、もうどこにもない。




天帝側の陸吾として⋯。そして、かつての仲間の浮遊として⋯。両者を裏切りながら、戦いに挑み⋯洶工と相柳の死に直接的にも間接的にも関わっていたのが彼であった。

なぜ、獣神である陸吾が、反逆者である洶工側の浮游としても同時に存在し得たのか?

それは⋯
特異なる境遇を、大きな過ちを、自らの手で⋯作り出してしまったからだった。
9個の顔、2つの名を持つ―⋯代償だ。




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