海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
報酬とばかりに、海棠から奪った哀の感情は⋯長年の蓄積したものが一気に溢れ出てきて、心痛に堪えなかった。
悲しさ、哀れみ、悲痛、憂い⋯ぐるぐると渦を巻いた浅葱色の感情は。
哀れに散った相柳の青い妖蛇の姿によく似ていて。とぐろを巻いては⋯心臓をぎゅうっと絞めつけるようだった。
「それでいい、相柳。お前の毒は⋯私だけが解ける。他には⋯向けるな」
自分が裏切ったその友に、罰を下されるのであれば⋯それは本望だと言えよう。
浮游は⋯どこかでわかっていた。
放棄してしまっていた1番恐ろしくて、1番求めていた感情が⋯いずれ自分を苦しめるだろう、と。
それでも、意外だったのは⋯
自分の感情だけの問題ではなくなっていた事だった。
主であった海棠の心を大きく占めて隠し続けた⋯哀の感情。
まさか、それもろとも受け取ることになるとは⋯予想していなかった。
いくら海棠が表面上明るくしていても、寂しさや悲しみを味わえば⋯浮游のみが、それを感じてしまう。本人は無意識下でも、深層心理で人を哀れんでいれば⋯こちらが請け負ってしまう。
他者の為に涙を流したのは⋯生きてたったの2回であった。師父、洶工を失った時と、友である相柳が⋯死んだ時だ。無論、誰にも見せたことはない。
浮游自身がそう思っていなくても、相反する思いを抱えていても、彼女のその痛みを⋯避けることができないのだ。
苦しみは⋯2倍となって。
予期もできずに⋯襲ってくる。
浮游は、その全てを1人で丸ごと飲み込んで。その毒を自らの血肉の一部として強制的に沈めてしまう。
そう―⋯、眉の1つも動かさずに、より冷徹に、周囲を威圧するほどの静寂を―⋯纏って。
「⋯⋯⋯師父の分の痛みであろう」
浮游はもう一本の酒を⋯その地に撒いて。
その場を、去っていった。
悲しさ、哀れみ、悲痛、憂い⋯ぐるぐると渦を巻いた浅葱色の感情は。
哀れに散った相柳の青い妖蛇の姿によく似ていて。とぐろを巻いては⋯心臓をぎゅうっと絞めつけるようだった。
「それでいい、相柳。お前の毒は⋯私だけが解ける。他には⋯向けるな」
自分が裏切ったその友に、罰を下されるのであれば⋯それは本望だと言えよう。
浮游は⋯どこかでわかっていた。
放棄してしまっていた1番恐ろしくて、1番求めていた感情が⋯いずれ自分を苦しめるだろう、と。
それでも、意外だったのは⋯
自分の感情だけの問題ではなくなっていた事だった。
主であった海棠の心を大きく占めて隠し続けた⋯哀の感情。
まさか、それもろとも受け取ることになるとは⋯予想していなかった。
いくら海棠が表面上明るくしていても、寂しさや悲しみを味わえば⋯浮游のみが、それを感じてしまう。本人は無意識下でも、深層心理で人を哀れんでいれば⋯こちらが請け負ってしまう。
他者の為に涙を流したのは⋯生きてたったの2回であった。師父、洶工を失った時と、友である相柳が⋯死んだ時だ。無論、誰にも見せたことはない。
浮游自身がそう思っていなくても、相反する思いを抱えていても、彼女のその痛みを⋯避けることができないのだ。
苦しみは⋯2倍となって。
予期もできずに⋯襲ってくる。
浮游は、その全てを1人で丸ごと飲み込んで。その毒を自らの血肉の一部として強制的に沈めてしまう。
そう―⋯、眉の1つも動かさずに、より冷徹に、周囲を威圧するほどの静寂を―⋯纏って。
「⋯⋯⋯師父の分の痛みであろう」
浮游はもう一本の酒を⋯その地に撒いて。
その場を、去っていった。

