海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
物足りないけれど、仕方ない。
渋々とボールを返し、男衆の訓練の続きを見学しようと⋯木陰に座ったその時だった。
「よお。そこの女君」
軍人の1人が、私にそう声をかけてきた。
「⋯じょ⋯女君?」
福にチラリと目をやって、何て答えたらいいのかを⋯訴えかける。
すると―⋯、福は、その者の姿を確認した途端に、弾かれたように姿勢を正した。
そこに立っていたのは、着崩した衣の隙間から古傷を覗かせ、気怠げながらも鋭い眼光を放つ男――。その体格、いかにも軍人、といった風貌の者であった。
「驍大人」
と、福はそう言って⋯胸の前で右手の拳を、左手の掌で包み込むように合わせた。そのまま片膝をついて、深く深く頭を下げると―⋯合わせた拳をさらに一寸ほど前へと突き出し、視線は己の爪先へ。
この、一連の流れるような動作。
ピリっとした空気間の中で行われた、美しくも猛々しい所作。
この対峙している相手。
【大人】という立場であるのなら⋯有昧后に次ぐ、NO.2の偉い人だ。
(「よお」なんて気軽な挨拶されても、どう返せば⋯?)
仕方なく福に倣って、同じように⋯頭を下げる。
「海棠。おいおい、忘れたか?」
ん?
「俺だ、俺。あー、そうか、あまりにも凛々しくてわからなかったか」
そういうと―⋯驍大人は、きっちりと纏め上げていた髪をぐしゃぐしゃ、と大いに乱した。
「驍⋯、大人?!」
そう。猪をさばいてくれた―⋯あの、気のいいオッサンだ。
「また会えると思ってたが、案外時間が経ったな。ところで―⋯見た所その鞠捌き、かなりの達人のようだが……どうだ、試しにその秘技、俺らにご教示頂けないか」
「えっ」
顔を上げて、その真意を探る。
「有昧后の戦闘教義は随一であり、誰にも真似などできん。そんな強者がこの場に留め置くなど、何か思惑があるのではないかと察していたが⋯。福公、そうであろう」
思わぬ⋯展開。
教えるも何も、いちプレーヤーに、そんな能力などある訳もなく⋯。
疑いもせず、懇願してくる男を前に、次の言葉が出ずに⋯つい、黙り込んでしまう。
「ご存じかと思いますが―⋯、私は、捕虜のようなものでして。以前ここから 逃げ出そうとしたこともありますが⋯信用なさって大丈夫ですか?」
「ハハッ! そんな達人を檻に入れておくほど、俺は無能じゃない。だいたいなあ、お前さんはあの巨大な猪を槍一本で倒し、畢方さえ手懐ける女子だ。只者じゃあない。……なあ、その空中で止める技、もう一度見せてくれよ」
「海棠。⋯ホラ、驍大人の命だ。すぐにお教えしろ」
福の⋯バットなアシストが入って。私は思わず首をブンブンと横に振った。
「勿体ぶるな。ああ、有昧后の反応が怖いのだな?俺に任せろ。ただ、共に蹴鞠を楽しむだけだ」
引き続き、拒否するものの⋯⋯、福の顔つきが、もう必死である。口パクで、「早く、早く!」と言っている。
どうやら、これは⋯従うしかないようだ。
渋々とボールを返し、男衆の訓練の続きを見学しようと⋯木陰に座ったその時だった。
「よお。そこの女君」
軍人の1人が、私にそう声をかけてきた。
「⋯じょ⋯女君?」
福にチラリと目をやって、何て答えたらいいのかを⋯訴えかける。
すると―⋯、福は、その者の姿を確認した途端に、弾かれたように姿勢を正した。
そこに立っていたのは、着崩した衣の隙間から古傷を覗かせ、気怠げながらも鋭い眼光を放つ男――。その体格、いかにも軍人、といった風貌の者であった。
「驍大人」
と、福はそう言って⋯胸の前で右手の拳を、左手の掌で包み込むように合わせた。そのまま片膝をついて、深く深く頭を下げると―⋯合わせた拳をさらに一寸ほど前へと突き出し、視線は己の爪先へ。
この、一連の流れるような動作。
ピリっとした空気間の中で行われた、美しくも猛々しい所作。
この対峙している相手。
【大人】という立場であるのなら⋯有昧后に次ぐ、NO.2の偉い人だ。
(「よお」なんて気軽な挨拶されても、どう返せば⋯?)
仕方なく福に倣って、同じように⋯頭を下げる。
「海棠。おいおい、忘れたか?」
ん?
「俺だ、俺。あー、そうか、あまりにも凛々しくてわからなかったか」
そういうと―⋯驍大人は、きっちりと纏め上げていた髪をぐしゃぐしゃ、と大いに乱した。
「驍⋯、大人?!」
そう。猪をさばいてくれた―⋯あの、気のいいオッサンだ。
「また会えると思ってたが、案外時間が経ったな。ところで―⋯見た所その鞠捌き、かなりの達人のようだが……どうだ、試しにその秘技、俺らにご教示頂けないか」
「えっ」
顔を上げて、その真意を探る。
「有昧后の戦闘教義は随一であり、誰にも真似などできん。そんな強者がこの場に留め置くなど、何か思惑があるのではないかと察していたが⋯。福公、そうであろう」
思わぬ⋯展開。
教えるも何も、いちプレーヤーに、そんな能力などある訳もなく⋯。
疑いもせず、懇願してくる男を前に、次の言葉が出ずに⋯つい、黙り込んでしまう。
「ご存じかと思いますが―⋯、私は、捕虜のようなものでして。以前ここから 逃げ出そうとしたこともありますが⋯信用なさって大丈夫ですか?」
「ハハッ! そんな達人を檻に入れておくほど、俺は無能じゃない。だいたいなあ、お前さんはあの巨大な猪を槍一本で倒し、畢方さえ手懐ける女子だ。只者じゃあない。……なあ、その空中で止める技、もう一度見せてくれよ」
「海棠。⋯ホラ、驍大人の命だ。すぐにお教えしろ」
福の⋯バットなアシストが入って。私は思わず首をブンブンと横に振った。
「勿体ぶるな。ああ、有昧后の反応が怖いのだな?俺に任せろ。ただ、共に蹴鞠を楽しむだけだ」
引き続き、拒否するものの⋯⋯、福の顔つきが、もう必死である。口パクで、「早く、早く!」と言っている。
どうやら、これは⋯従うしかないようだ。