海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
彼は焚き火で、矢に刺さった文鰩魚を、何度も身を返しながら⋯丁寧に焼いていった。
「よく魚を食べるの?上手だね」
「私がこれを?食べる訳がない」
「⋯⋯⋯」
(そんな物を、人間に食べさせようとするの?)
どんな腹づもりかはわからないが、ちょっとだけ⋯悪寒が走った。
魚を焼いている間に、もう何度目かになる事情聴取が⋯行われた。
人を追い込む天才か、と言うほど⋯言い逃れは許さずに。淡々と、事実のみを話すよう誘導していく。
少しでもドラマチックに話せば⋯目を睨んで、直ちに金縛り状態にしてしまう。
流石に、軍陣営でサッカーに興じたことは⋯恐ろしくて言えずに。その件を抜いて、一通り話していったが⋯、如何せん、疑いの眼差しだ。
「お前は、私がお前を助けたと、そう思っているのか?」
鬼のような形相で⋯冷たい灰色の視線が、私の胸を刺す。
「⋯⋯違うの?」
「私を見ても、助けろとは一言も言わなかったであろう?」
「それは⋯」
(口を開けば、溺れるかもしれなかったから。それに⋯そうなっても、助けてくれる保証もない)
「死を求めるようだから、そのまま放っておくつもりだった。だが⋯お前を護衛していた筈の福の行方が依然として不明だ。だから⋯生かした。それだけだ」
「⋯⋯そう。初めから⋯期待などしてません」
「利とならぬのなら、捨て置く」
「貴方のその性格ではそうでしょうね」
いい奴かと思えば⋯、また、こうして距離ができる。
人を自分の域に踏み込みさせまいと⋯強固な壁をつくる。
この男は⋯非常に面倒くさく、難儀な奴なのだ。
「虚言があれば⋯⋯お前をこの島に置いていくつもりだ、⋯どうだ?話し足りないのではないか?」
そして⋯、すぐ人を脅す。
「有昧王。もういいでしょう?どうせ貴方には全てを見抜かれてしまうのだから。怖がらせようと思っても、もうその手には乗りません。どうぞ、この火で焼くなり、煮るなどして痛めつけてください」
「⋯⋯⋯⋯」
こう言えば、この天邪鬼は⋯絶対にそうしようとしない。根っからの悪人では、ないからだ。
なのに⋯、だ。
浮游は、また1本、掌から矢を出して⋯その矢尻を、炎で炙り始めた。
(⋯⋯これは⋯)
どうやら、天邪鬼説は⋯撤回せねばならないようだ。
「有昧の矢は、殺傷力の高い独自の技術を用いた⋯矢尻だ。見よ、人間界でも、かような形状の物はないのではないか?」
真っ赤に熱されたその矢尻は⋯確かに、独特の形をしている。
「これに、霊力の高い者が力を加えたらどうなる?霊力を与えずとも、血を一滴落とすだけで、格段にその率は上がる」
浮游は自分の指を噛んで⋯、滲み出てきたその血を、私の目の前で見せる。
「安心しろ。痛みも感じないほど一瞬で、死に至らしめる」
ひんやりとした指先が⋯私の首元をなぞる。
「一瞬だ」
その手を、まるで首を切るかのように⋯サッと動かして。
私の表情を⋯窺い見るのであった。
「⋯⋯⋯」
口でも⋯敵いそうもない。
流石に一国を守る王であり、軍師だ。
人を殺すことなんて造作もないのだ、と言わんばかりの⋯迫力。
「どうする?続けるのか?」
今度は真っ赤な矢先を、私の目前に突きだして⋯なおも脅してくる。
「お前のことなど正直どうでもよい。だが、福や有昧に何か起きるのなら⋯生きることを許さぬ。今すぐ奪える命だ」
手が⋯ガタガタと震えてくるのを感じた。
この人に、本当の意味での恐怖を感じたことは⋯これまで一度もなかった。
この非情さを⋯どこかで疑い、信じていなかったのかもしれない。
だからこそ。
体の芯から震えるほどの恐怖が⋯今更ながらに襲ってくるなんて、思いも⋯しなかった。
この男を⋯信じてはならなかったのだ。
途端に⋯目の前が急激に真っ暗になっていった。
目を開けているのに、見たくない。見ようと⋯しない。できない。⋯フェードアウトしたい、と。そんな願望が⋯思いが⋯駆け巡って。コントロールする術を失っていった。
この人が今どんな顔をしているのか、見るのが⋯怖い。
そうか、私は⋯傷ついたのか。
簡単に信じようとして、裏切られたから⋯勝手に、傷を。なんて⋯独りよがりなのであろう。
この感情は、この⋯感情は⋯?
「よく魚を食べるの?上手だね」
「私がこれを?食べる訳がない」
「⋯⋯⋯」
(そんな物を、人間に食べさせようとするの?)
どんな腹づもりかはわからないが、ちょっとだけ⋯悪寒が走った。
魚を焼いている間に、もう何度目かになる事情聴取が⋯行われた。
人を追い込む天才か、と言うほど⋯言い逃れは許さずに。淡々と、事実のみを話すよう誘導していく。
少しでもドラマチックに話せば⋯目を睨んで、直ちに金縛り状態にしてしまう。
流石に、軍陣営でサッカーに興じたことは⋯恐ろしくて言えずに。その件を抜いて、一通り話していったが⋯、如何せん、疑いの眼差しだ。
「お前は、私がお前を助けたと、そう思っているのか?」
鬼のような形相で⋯冷たい灰色の視線が、私の胸を刺す。
「⋯⋯違うの?」
「私を見ても、助けろとは一言も言わなかったであろう?」
「それは⋯」
(口を開けば、溺れるかもしれなかったから。それに⋯そうなっても、助けてくれる保証もない)
「死を求めるようだから、そのまま放っておくつもりだった。だが⋯お前を護衛していた筈の福の行方が依然として不明だ。だから⋯生かした。それだけだ」
「⋯⋯そう。初めから⋯期待などしてません」
「利とならぬのなら、捨て置く」
「貴方のその性格ではそうでしょうね」
いい奴かと思えば⋯、また、こうして距離ができる。
人を自分の域に踏み込みさせまいと⋯強固な壁をつくる。
この男は⋯非常に面倒くさく、難儀な奴なのだ。
「虚言があれば⋯⋯お前をこの島に置いていくつもりだ、⋯どうだ?話し足りないのではないか?」
そして⋯、すぐ人を脅す。
「有昧王。もういいでしょう?どうせ貴方には全てを見抜かれてしまうのだから。怖がらせようと思っても、もうその手には乗りません。どうぞ、この火で焼くなり、煮るなどして痛めつけてください」
「⋯⋯⋯⋯」
こう言えば、この天邪鬼は⋯絶対にそうしようとしない。根っからの悪人では、ないからだ。
なのに⋯、だ。
浮游は、また1本、掌から矢を出して⋯その矢尻を、炎で炙り始めた。
(⋯⋯これは⋯)
どうやら、天邪鬼説は⋯撤回せねばならないようだ。
「有昧の矢は、殺傷力の高い独自の技術を用いた⋯矢尻だ。見よ、人間界でも、かような形状の物はないのではないか?」
真っ赤に熱されたその矢尻は⋯確かに、独特の形をしている。
「これに、霊力の高い者が力を加えたらどうなる?霊力を与えずとも、血を一滴落とすだけで、格段にその率は上がる」
浮游は自分の指を噛んで⋯、滲み出てきたその血を、私の目の前で見せる。
「安心しろ。痛みも感じないほど一瞬で、死に至らしめる」
ひんやりとした指先が⋯私の首元をなぞる。
「一瞬だ」
その手を、まるで首を切るかのように⋯サッと動かして。
私の表情を⋯窺い見るのであった。
「⋯⋯⋯」
口でも⋯敵いそうもない。
流石に一国を守る王であり、軍師だ。
人を殺すことなんて造作もないのだ、と言わんばかりの⋯迫力。
「どうする?続けるのか?」
今度は真っ赤な矢先を、私の目前に突きだして⋯なおも脅してくる。
「お前のことなど正直どうでもよい。だが、福や有昧に何か起きるのなら⋯生きることを許さぬ。今すぐ奪える命だ」
手が⋯ガタガタと震えてくるのを感じた。
この人に、本当の意味での恐怖を感じたことは⋯これまで一度もなかった。
この非情さを⋯どこかで疑い、信じていなかったのかもしれない。
だからこそ。
体の芯から震えるほどの恐怖が⋯今更ながらに襲ってくるなんて、思いも⋯しなかった。
この男を⋯信じてはならなかったのだ。
途端に⋯目の前が急激に真っ暗になっていった。
目を開けているのに、見たくない。見ようと⋯しない。できない。⋯フェードアウトしたい、と。そんな願望が⋯思いが⋯駆け巡って。コントロールする術を失っていった。
この人が今どんな顔をしているのか、見るのが⋯怖い。
そうか、私は⋯傷ついたのか。
簡単に信じようとして、裏切られたから⋯勝手に、傷を。なんて⋯独りよがりなのであろう。
この感情は、この⋯感情は⋯?