海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
第14話 薄明の知略〜九天を巡る指先〜
どこまで私の心情を理解したのか、それとも無関心に利害を考えたのか、その事情は―⋯わからない。
引きとめることができず、その背中を見送って。
呆然とその場に立ち尽くしていた私の元に―⋯彼は戻って来た。
何故か⋯矢に刺した文鰩魚と、共に。
再び火を囲んで。
私が魚を食べるその側で⋯浮游はもう一匹のそれを無言のまま焼いていた。
「魚なのに嘴があるなんて⋯。邪魔だな」
あまりにも、無言が苦しくて⋯ブツクサと呟いてみるが、反応⋯なし。口の端は⋯?変化なし。
「魚を獲りに行くのだったら、最初からそう言ってくれればいいのに⋯」
ブツクサ。
⋯⋯無視。
「ちょっと酸味があるけど、甘さもあり。甘酢あんかけにしたら最高かも。油でカラッと揚げて。⋯そうだ、そもそも夏王朝には揚げものの技術は⋯?」
「少し黙れ」
「⋯⋯黙ってたら、ここに居てくれるの?」
「⋯⋯。文鰩魚には癲狂を癒す効果がある。暴れる蟲にも効くだろう」
「⋯てんきょう、とは?」
「狂気」
「⋯⋯。あ―⋯、なるほど」
つまり、私に狂気を感じたってこと?
「なら、貴方が焼いてるそれは?もう1つくれるの?」
「⋯⋯⋯」
浮游は答えぬまま、焼き上がった文鰩魚をじー⋯と観察して。
「嘴が邪魔だ」と言いながら、がぶりとそれを頬張った。
「人の話を聞いていないようで、聞いてるよね。それに⋯さっきは食べないと言ってたのに」
この人が食べている所を⋯初めて見た。
ふと―⋯思う。
文鰩魚が狂気を癒すと言うのなら。浮游は先程自分の身に起こったことを、そう見做しているってこと?
「妖怪なのに⋯人間くさい所もあるんだね」
うっかりまた余計なことを口走ったが、失言か?と思いきや⋯そこは全くのスルーであった。
「それで?」
「⋯はい?」
「お前が隠していたことを、全部話すのではなかったのか?」
「⋯⋯⋯」
スルーどころか⋯聞いてもいるし、記憶はしてるし、流石は軍師である。相手の出方を見ながら、大局を見極めていたとは⋯恐れ入った。
私は確かに⋯見たはずだった。
この人の瞳に宿った⋯残酷な輝きは。蠱惑的で、呪縛のように―⋯私の目を奪った。
なのに―⋯だ。
こうここには、そんな凄艶な姿はない。
挑むような、試すような傲慢なほどに静かな瞳で⋯私の浮薄な揺らぎを射貫くのであった。
引きとめることができず、その背中を見送って。
呆然とその場に立ち尽くしていた私の元に―⋯彼は戻って来た。
何故か⋯矢に刺した文鰩魚と、共に。
再び火を囲んで。
私が魚を食べるその側で⋯浮游はもう一匹のそれを無言のまま焼いていた。
「魚なのに嘴があるなんて⋯。邪魔だな」
あまりにも、無言が苦しくて⋯ブツクサと呟いてみるが、反応⋯なし。口の端は⋯?変化なし。
「魚を獲りに行くのだったら、最初からそう言ってくれればいいのに⋯」
ブツクサ。
⋯⋯無視。
「ちょっと酸味があるけど、甘さもあり。甘酢あんかけにしたら最高かも。油でカラッと揚げて。⋯そうだ、そもそも夏王朝には揚げものの技術は⋯?」
「少し黙れ」
「⋯⋯黙ってたら、ここに居てくれるの?」
「⋯⋯。文鰩魚には癲狂を癒す効果がある。暴れる蟲にも効くだろう」
「⋯てんきょう、とは?」
「狂気」
「⋯⋯。あ―⋯、なるほど」
つまり、私に狂気を感じたってこと?
「なら、貴方が焼いてるそれは?もう1つくれるの?」
「⋯⋯⋯」
浮游は答えぬまま、焼き上がった文鰩魚をじー⋯と観察して。
「嘴が邪魔だ」と言いながら、がぶりとそれを頬張った。
「人の話を聞いていないようで、聞いてるよね。それに⋯さっきは食べないと言ってたのに」
この人が食べている所を⋯初めて見た。
ふと―⋯思う。
文鰩魚が狂気を癒すと言うのなら。浮游は先程自分の身に起こったことを、そう見做しているってこと?
「妖怪なのに⋯人間くさい所もあるんだね」
うっかりまた余計なことを口走ったが、失言か?と思いきや⋯そこは全くのスルーであった。
「それで?」
「⋯はい?」
「お前が隠していたことを、全部話すのではなかったのか?」
「⋯⋯⋯」
スルーどころか⋯聞いてもいるし、記憶はしてるし、流石は軍師である。相手の出方を見ながら、大局を見極めていたとは⋯恐れ入った。
私は確かに⋯見たはずだった。
この人の瞳に宿った⋯残酷な輝きは。蠱惑的で、呪縛のように―⋯私の目を奪った。
なのに―⋯だ。
こうここには、そんな凄艶な姿はない。
挑むような、試すような傲慢なほどに静かな瞳で⋯私の浮薄な揺らぎを射貫くのであった。