海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
これらの、講義を終えたその瞬間であった。

「……驚いた。ただの鞠遊びだと思っていたが、そなたが伝授したのは『天下を盤面にする術』であった。一体誰から学んだのだ?」

驍が、ポツリとそう呟いた。
私は⋯答えることができない。悔しいけれど、覚えていないのだから。
どこかの、誰かから―⋯学んだことに違いないのに。

「まあ、よい。有昧后がそなたを逃さない訳だ」

​すると驍は、突如全軍を前に、胸の前で深く抱拳礼を捧げ、腹の底から咆哮する。
​「お前たち! 我ら有昧が仰ぐべき后は、ただお一人、有昧后である。だが! その后の隣に立ち、道なき道に光を穿つ者がもう一人おられる!」
​彼は、私を力強く指し示した。


​「今日この時より、后と共に戦場を司る天軍の知首(てんぐんのちしゅ)と仰げ!」
​驍はさらに片膝を突き、地に響く声で続けていく。

「浮游后を『武』の頂とすれば、海棠知首(ちしゅ)は『智』の源。有昧全軍に告ぐ!二人の師を戴き、有昧の命運を切り拓くのだ!⋯有昧に栄光あれ!我らが知首!」

彼の雄叫びを皮切りに―⋯
「知首!知首!知首!」と、軍人たちが声を揃えて繰り返す。
とてつもない一体感。迫力ある―⋯士気高揚。


私はその威圧感に、圧倒されながらも⋯心底安心して⋯、肩の力がドッと下りた。


昧谷に響き渡る咆哮。同時に身が引き締まるような思いがこみ上げてきて。


いつぶりかに、目頭が⋯熱くなった。







この、何者でもない自分という存在を、その意義を、認めてもらった。
そんな⋯気がして。

それに、あんなに目を輝かせていたのに、不安に帯びたどんぐり眼が⋯、やはり心配そうに、ずっと見守っていてくれた。だからこそきっと、やり抜くことが⋯できた。

福、貴方には本当に感謝しかない。



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