海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
実際に人を動かすこともできない、見せることができない状況下。だが―⋯、この者は軍師であり、元より俯瞰的に物事を見ているだろう。


私は、戦術ボード⋯もとい、砂浜のその砂へ、指でプレーヤーと流動的なポジション変化について描いていく。
もし、この地で戦が起きたら⋯土地の利もあり、有昧の軍は圧倒的に有利になる。
敵を誘導し追い込むなら⋯ココ。空いたスペースはこっちのチームでカバー。敵の動向に合わせ目まぐるしく変容させ撹乱させていく、ゾーンディフェンスの真骨頂である、諸葛亮の陣。

「空が明るいから、砂でもかろうじて見えるけど⋯、見えづらいな。有昧王。いえ、⋯浮游(ふゆう)。書いたこの図を、貴方は宙に映すことができるでしょう?それをお願い」

不遜な願い、この1言で。
昨夜のやりとりを⋯思い出すのは、私だけではないでしょう?

知ってるよ、覚えてるよ。貴方にも、抱えているものがあるのだってこと。それを⋯他に誰が指摘できるというのだろう。

浮游はただただ、何も言わぬまま⋯、砂の【戦術ボード】に手を翳して、それを消し去っていく。
その行方は⋯言うまでもなく。

私たちの、目線の高さ。
その宙のキャンバスに⋯転写されていた。

彼は湿った砂の感触を厭わず、片膝を高く立てたままどっしりと座すと、その不敵な姿は、目前の難局すらも掌の上で転がす盤上の遊戯と断じているかのように、口の端をあげて⋯布陣を見つめるのだった。

【ここに書け】と言うように、宙を指差して。


私は⋯ひとつ頷いて、話を続ける。

この布陣を⋯いつの間にか、まるで空から見下ろしているかのように。映像(ビジョン)が勝手に展開していく。()の大地をまるで知り尽くしていくいるかのように⋯先読みし人員を動かしているのだった。

「大事なのは⋯どのタイミングでどの方角へ動くかの、タイミングと方位。吉凶の判断が肝となる」
そんな考えが思いつくかどうかのうちに⋯もう、語っているのだった。

あらゆる想定をパターン化し、その対応策を組み立てていくと。

ふと、もう大丈夫であろう、という確信めいた何かが⋯一気に脳を支配していた。

願わくばどうか、私がここにいる、この時代この時に⋯争いごとが起きませんように。
そう、心から―⋯願って。



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