海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
すると⋯どうだ。
浮游は眼光紙背(がんこうしはい)を徹す鋭い視線で、指摘する。

「戦がない国の、ただの1人の人間が、なぜこのような陣を⋯?」

「いや⋯、ですから、ただ、サッカーの戦術に通じているのであって」

「【したことがない】戦を、知らない地で、その陣形を⋯なぜ鳥瞰的(ちょうかんてき)考えることができる?」

「⋯⋯ですから、諸葛孔明が⋯」

「お前が語っていることは、かつて黄帝(こうてい)が―⋯」

「⋯⋯?」
(こうてい⋯?)

「⋯⋯。まあいい。では聞こう。最後に描いた、この(いん)は⋯何を意味する?」

「印?」

浮游が指差す所を見上げると。
確かに、そこには⋯描いた覚えのない絵が⋯残っていた。

布陣のど真ん中に⋯円。
フィールドのセンターサークルとも言えなくもないが。
妙なのは⋯その中に。オタマジャクシが2匹、円の中で追い回しているようなー⋯そんな不思議な図であった。


その印は⋯すぐに淡い光へと変わり、空へと昇っていく。


「⋯消えちゃった」

もっと見てみたかったような気がする。けれどそれが当然の摂理のようにも思えて⋯、何とも言えない後味だった。

「⋯もっと話しますか?」

「いや⋯。もう夜が明ける」

「明るいのに?」

「白夜だ」

「⋯!これが?⋯それよりも、夜が明けるってー⋯」
そんなにも長い時間、喋っていたの?
この人、ずっと相手をして⋯?

「眠くないの?」

「⋯⋯⋯」

お前がそれを言うのか、と言いたげな顔だ。

「お前をここに連れて来たのは愚強(ぐきょう)であろう。福については心配はない。それに⋯ここは愚強が根を張らせた島だ。本当に用があるのなら、今頃懸命にお前を探し、いずれここに辿りつくだろう」

「それまでここでただ待て、と?」

「待てぬのなら連れ帰るか」

「さっきは置いて行こうとしたのに?」

「⋯⋯⋯」

「まあいいや。じゃあ⋯少し休ませてもらいます。人間は寝ないと、次の日に響くんです。貴方は⋯違うでしょうが」


私がそう言って、砂浜にごろんと横になる。
あんなに冷え切った海、寒いであろうこの浜辺。
けれどこの男が側にいるということは、そういった心配ごとはないわけで⋯。

予想通り、何も見える訳でもないのに⋯
寝返りうっても、うっても剥がれることない、寝袋にでもくるまっているような感覚であった。

例え1時間でもいい。
そう思って目を瞑り⋯⋯⋯


どのくらい経ったのか。
沈まぬ太陽の光が、白く、明るく感じたー⋯その時に。

ふと、目が覚めた。

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