海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜

第15話 北冥の神、黙認す〜不敬なる針の跡、無礼なる一刻〜

夜が明けたのか、明けていないのかも分からない。水平にただただ動いていく⋯太陽。

また昼間まで寝ていたのか?
そんなことを思いながら、あの者の行方を探す。
―が、その姿は、すぐ側に。

大層姿勢良く、じっと海の方を眺めて⋯その眼光を光らせているのだった。

「⋯あの⋯ずっとあのままの姿勢で疲れませんか?」

そろーり、と顔を覗かせて、ほんの囁き声で機嫌を窺う。

「⋯⋯⋯?」

視線は一点集中。少しも揺らぎもしない。
遠くに見える点々とした島でも⋯観察しているのか?

胡座をかき睨んだまままま、何をそんなに警戒してるのやら。

よくよく見ると⋯。

(おや?瞬きすらしてない。この人、目⋯乾かないのか?)

不思議に思い、彼の目の前に⋯手を翳してみる。

「⋯⋯?」

次に、その手を⋯振ってみる。

「⋯⋯!」
反応が、ない。

もしや⋯有昧王よ。


私はずいっと顔を近づけて。
これまでの恨み、とばかりに⋯デコピンする空動作を繰り返す。

恨みを晴らすのであれば⋯フリーキックの壁にでもしてやろうか?などとも、考えてみる。
「⋯⋯⋯」

いや、ボールどころか指一本すらも、奴は寄せ付けないであろう。

それでも、これを機に何か⋯!と不届き千万な思いが駆け巡るのは致し方ないことで。
私は周囲をキョロキョロと見渡して、何か役に立ちそうなものはないかと、探してみる。

すると―⋯。


「触れさせぬのであれば、己の分身を使って遠隔操作してやる」

私は、砂につき刺さっている黒焦げた【矢】を手にとって⋯ニヤリと不敵に、笑ってみせた。

私を前に、油断するとは⋯笑止。



さて。
浮游なる非情な男の尊厳を傷つけるには、ちょっとした⋯知恵がいるだろう。

黙したまま、それでも威厳を保っていられるのは、その隙のなさである。では、その隙を突いた策略とは?


着目したのは⋯沈まぬ太陽と、長くながーーーく伸びた影。

私は早速、浮游のその分身へと近づくと。その縁を、影の存在を⋯矢先でなぞっていく。
どこまでも続くそれは、海岸線ギリギリの辺りで(頂点)に辿り着いた。

その頂点に、落ちていた貝殻を置いて。
そしてまた、彼の元へ向かって⋯砂を滑らせていく。

そして⋯じっと浮游(ほんたい)を確認して。
時間の経過を待つ。

心の中で、ずっと数を数えつつ。

その間はちょっと暇だが、彫刻化した浮游像を眺めるのは⋯芸術鑑賞的な目の保養になりそうだ。滅多に凝視できぬのだから、隅々まで見てやれ。

そして、分身が動くと⋯また、出番だ。



そうして、それを繰り返し⋯彼の周りに扇形の妙な陣をつくってやろうと目論んで講じた策は。
何度目かになる、鑑賞時間に―⋯。

急に試合終了が告げられた。


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