一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「本日は、席は分別しておりますが、他の団体様と仕切りなく宴の間をお借りしてますので、席のお間違いのないようにお願いいたします」
 
 集まったお客様に、あえて中国のツアー団体だとは言わなかった。
 
 高齢者の中には、外国人というだけで差別的に捉える方もいるからだ。
 
「年寄りはバイキングは苦手なんだよなぁ……よっこらしょっと」
 
 最高齢の木下さんが、不自由な足で人混みを掻き分けて料理を取っている様子は、見ていて申し訳なく思った。
 
 息子さんの方は、自分の分で手一杯のようだ。

「昨日の会席料理の方が良かったわ」
 
 赤石さんも、洋食メインのバイキング料理には不満気味。
 
「ていうか、あっちの団体、中国人じゃね?」
 
 昼間、韓国の客と揉めた南條さんは、険しい顔をして向こうの宴会を見ていた。
 
 気になった私も、席を回りながらあちらの客層をチェック。
 
 個人で銀座等を訪れるような沿岸都市の客ではなく、内陸部からの参加者ではないかと思われた。
 
 それでも、お金は持っているので贅沢には慣れている。

 失礼ながら、このホテルのバイキング料理は一流ではない。
 メインは豚肉と鶏肉。刺身はあるけれど、寿司もないし、唐揚げも衣が厚そうで、食欲をそそられない。
 
 サラダも、今朝の鹿児島のホテルの方がおしゃれで鮮やかだった。
 
 それをあっちの方々が満足するだろうか?
 
 と、余計なお世話な事を考えていたら……、
 
 
「个招待?(これがおもてなし?)」
 
 案の定、 一番近くの席の中国人が従業員に不満を漏らしていた。






 


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