一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「お。岡田じゃないか?」

 振り向くと、見覚えのある顔が…。
 八年ほど経って、恰幅(かっぷく)良くなってはいるけど、確かに知り合いだった。
 ツイてね。
 よりによって同期の男が南京支店の添乗員をしていたよ。
 (失礼ながら名前は覚えてないが)
 
「うちで、国外向けチーフ兼支店長代理まで務めた岡田が、まさかのまさか! 地方のバス運転手かよ?」
 
 勝ち誇ったような笑いとともに、そいつの腹が揺れ踊る。
 よせばいいのに、桑崎が入ってきた。
 
「私、南部観光バスで添乗員として雇われております、トラベルプロの桑崎と申します。今回はご縁がありまして、そちらと宴の間を共有させて頂くことになりました」
 
 桑崎の丁寧な挨拶さえも、元同期の男は鼻であしらった。
 
「関係ない派遣の人間はすっこんでろ」
 
 こいつ、桑崎を侮辱しやがった。
 
 俺はブツッ…とキレた。



 


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