一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「なんだよ? 俺が水飲んだらそんなにおかしいか」
「いいえ、別に。昨夜、飲みすぎた?」
「飲んでない。それどころじゃなかったし」
 
 そうよね。
 桑崎紫都の迎えに行ったんだもんね。

「これ食ったら飲まずにはいられない。ほら、お前も食え。ガイド中に喉から火吹くかもしんないぞ」
 
 つまんない己の冗談に笑いを堪える岡田が、唐辛子のガムを私にくれた。
 
「火吹くって、ゴジラかっつーの」
 
「肌の質感は似てんじゃねーの?」
 
「は?!」
 
 直ぐにそれを突き返す。
 こいつ、とことん失礼!

「そんなにカリカリすんなよ、シワ増えるぞ」

「あんたが余計な事を言うからっ………」
 
「それより、ほら、お前のお気に入りの三宅が、桑崎と二人でソフトクリーム食ってる。邪魔しに行かなくて良いのか?」
 
 岡田が顎でクイッと屋外の休憩椅子を指して、目で私に見ろ、と言う。
 
 確かに三宅くんと桑崎紫都が並んで座って雑談?している。
 
「邪魔しに、とか人聞き悪いわね」
 
 てか。
 あんたが気になってるんでしょう?
 
 リバーシブルだか何だか知らないけど、好きな俳優のあだ名つけるほどハマってる三宅くんを、女に取られそうでさ。
 
「取り敢えず、桑崎と話し合って次の行き先を決めてこい」
 
  トン………と、岡田が私の背中を押す。
 
  もしかして、気を利かせたつもり?
 
  岡田の癖に?
 
  でも、なんだろ。
  この感じ。

  悪くないって、思った。


  まあ、この人が、ノーマルなら、ね。




 
 
< 224 / 316 >

この作品をシェア

pagetop