一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 私の声に、眠りに就こうとしていた三宅くんが目を開けて、私と同じ方向を見た。

「この短時間にナンパされたとか?」
 
 窓から見える、桑崎紫都と黒髪イケメンのツーショット。
 もう諦めた風な事を言っていた三宅くんの顔が、たちまち曇っていく。
 
 ヤバい。
 また、キュンしてしまう。
 
 綺麗な男の嫉妬に歪む顔。
 
 綺麗なのは、前にいる岡田もなんだけどね。
 
 窓から岡田に視線を移すと、岡田は、外なんて見てなかった。
 珍しく本を読んでいる。
 
 進行方向を向いてるとはいえ、船酔いしないのかしら?
 てか、もしかして、エロ本?
 
 何を読んでるのか、少しだけ腰を上げて覗くと、何かの文庫本みたい。
 
 しかも。
 
 ………桜の花びらを挟んでいる。
 
  もしかして。
  さっき公園に咲いていた八重桜の花びら?
 
 ジンクス信じてキャッチしたの?
 思わず想像してしまった。
 
 ……こいつ、乙女なの?
 
 BLで言ったら、受けの方なの?
 
 ちょっとだけゾワリ…として、数時間前に好印象を持った事を後悔した。
 
 私の恋は実らなかったけど、この旅に咲いた恋の花は、まだ咲き乱れてるようだ。


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