一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「紫都」
 
 不本意ながら美隆の両腕に支えられる。

「………ごめんなさい、少ししたら治る」
 
 美隆の、シワ一つないシャツからは甘いフルーツの柔軟剤の匂いがした。
 
 グウタラとか言われてるけど、奥さん、ちゃんと洗濯とかアイロンがけとかしてる人。
 
 無意味に、私の背中を擦る美隆が、
 
「そういえば」
 
 何かを思い出したようにニヤリと笑った。
 
 「紫都って、生理の前後に貧血起こしてたよな」
 
  ″生理 ″の話。

 丸っきり赤の他人になった男の口から聞くと、とても恥ずかしくなる。
 返事もしたくない。
 
 私は、俯いたまま、目眩が治まるまで目を閉じていた。
 
 治ったら、直ぐにここら出ていこう、と。
 
 けれども、少しだけ声を落として、耳元で話す美隆は何か勘違いをしていた。
 
「青白くなったり、赤くなったり可愛いな、紫都は」
 
「………」
 
「生理の前なら、時期的に丁度良かったかもな。今夜か明日の夜に、昔いつも使ってたホテルへ行かない?」
 
 直接的な誘いに、その場から立たずにはいられなくなった。







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