一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 旅行の最後の最後で、再び狼狽える息子と、涙目で謝罪するお父様を見ていたら、もう怒りなんて消えていった。

「人生最後の旅行の添乗員が、貴女でよかった」

「人生最後だなんて……また、お会いできるのを楽しみにしてます」
 
「そう出来たらいいけどね」
 
 笑う御父様に握手を求められ、私は、その手を握った。
 
 乾いていたけれど、とても温かい手だった。
 仲の良い親子は、バスが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
 
 それから、順調に各バス停に停車していき、最後のお客様最寄りの場所に着いた。
 
 ニュータウンの商店街バス停。
 三宅くんがスッと席を立った。


 
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