一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 入り口のドアが、抜けたような音を立てて開く。
 
 たった三日前、ここからバスに乗ったのに。
 一週間も二週間も旅をしていたみたいだ。
 
 私は、自身の小さめのボストンバッグを持って席を立った。
 
「おつかれさん、イノシシに遭遇したらとりあえず一目散に逃げろよ」
 
「それ、私を殺そうとしてますよね? そっと距離を置くのが正解だって知ってますから」
 
「さすがだな」
 
 クック……と最後までイヤな笑いをする岡田が、ふっと、何かを思い出したように、「おい」と、手を伸ばして、私の腕を掴んだ。

「な、なんですか?」
 
 
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